本研究の特色は、医療水準が注意義務の判断に及ぼす影響を理論化することで、医師が負うべき注意義務の実践的な判断基準を提供するための基礎理論の構築に取り組んだ点にある。とりわけ、医療水準を基礎に医師の注意義務を確定する判断枠組みを定立した点で、刑法理論(刑事過失犯論)および裁判実務(医療過誤訴訟)の双方において学術的な意義が認められる。 また、上述した基礎理論の構築を通じて、治療行為を実施するにあたり、医療の現場で自己の行為の適法性を予め判断するための手がかりが医師に与えられることから、萎縮医療への一定の歯止めとなることも見込まれる。この点で、本研究の社会的意義は大きい。
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