研究実績の概要 |
本研究の目的は, 代数曲線の数論的基本群や, そのメタ・アーベル商, さらに数論的基本群の「線形化」として得られるような淡中基本群の構造を明らかにすることである. 特に, それらの上のガロワ作用と, 対応してあらわれるような(p進解析的)周期との具体的な関係について研究を行う. 具体的な研究対象は, 一点抜き楕円曲線やモジュラー曲線の数論的基本群である. 今年度は昨年度の研究を発展させ, 主に以下の二つの研究成果を得た: (1) Arapuraのモチーフ層の再定義と高次順像の理論の基礎付け. 更に応用として, モジュラー曲線の相対的冪単基本亜群のモチーフ的構成を行った. (2) 混合楕円的p進エタール局所系のなす圏の淡中基本群の構造の研究. 特に, その基本群と(1)に述べた相対的冪単基本亜群の混合楕円商を比較し, 基本群の構造決定に向けて, その大きさ(=双対関係式の量)をオイラー系の理論を用いて下からおさえるという基本的な戦略を得た. (1)は, Deligne-Goncharovによって得られた有理的代数多様体の冪単基本群のモチーフ的構成の弱い一般化を含む. 従ってこれは代数曲線の数論的基本群の「線形化」の研究に於ける基本的な結果であると思われる. また, (2)はこれまで得られていたHain・松本による, 基本群の大きさを下からおさえる方法とは完全に異なる戦略であるので, 基本群の構造決定に於いて重要性が高い結果であると思われる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究は, 主に昨年度の研究成果の基礎付けと, その結果の応用の為の戦略を形作ること, またその方針の妥当性の研究に充てられた. それらに関しては一定以上の成果を得ることができた. 一方で, 本研究の目的の一つは, p進解析的な周期を用いて数論的基本群上のガロワ表現を記述するというものであったが, 本年度の結果・考察は全て複素解析的周期と関連するものであり, p進解析側にはほぼ触れることができなかった. 以上で, 本研究の主目的に鑑みれば, 本年度の研究の進行はやや遅れていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は, まずは以下の二つの課題研究を行う: (1) 研究概要実績に於いて述べた, 混合楕円的p進エタール局所系のなす圏の淡中基本群の大きさを下からおさえる, という戦略を実行に移す, (2) p進解析的周期を用いて(1)で現れた淡中基本群上のガロワ表現を記述する. これらを実行に移すために, まず本年度得られた結果を論文にまとめ, 学術雑誌に投稿する. 課題(1)は, 大体の方針は立っているので, 実行に移すだけであるが, うまくいかない部分があった場合には, 代数曲線等にどのような条件をつければ興味深い結果が得られるか, ということを検討する. 課題(2)については, 複素解析的周期がどのように基本群上に現れるかを観察し, 対応して現れそうなp進解析的周期を予測する, という手法により研究を進める.
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