研究課題/領域番号 |
17J03406
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 雅大 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 障害の地理学 / 批判地図学 / 地理空間情報 / 視覚障害者 / 触地図 / 物質性 / 言語資料 |
研究実績の概要 |
本研究は、視覚障害者向けの触地図を事例に、障害者向け地理空間情報の構造的問題を検討することを目的とする。 第2年度目は実際の触地図作成の現場を調査することを予定していたが、視覚障害の当事者や触地図に詳しい有識者への聞き取りを通じて、①特定の個人・組織に対するアンケートや聞き取り調査では触地図の構造的問題にアプローチしづらいこと、②日本社会の中で触地図がどのようなものとして存在してきたのかが明らかにされていないため、まずはそれを歴史的観点で検討する必要があること、の2点がわかったため、アプローチの仕方を変更することにした。具体的な結果は次の通りである。 まず、最近の地図学、障害学、障害の地理学の文献を渉猟し、いずれの分野においても物質性に対する関心が強まっていることを確認した。地図学においては地図そのものの物質性や地図を取り巻く状況の物質性などが議論され、ポスト表象的地図学と呼ばれる取り組みが始まっている。また障害学や障害の地理学の分野においては、身体や周囲の環境等の物質性が議論されており、「障害」が前意識的段階において発生する情動的な身体反応を介した差異化の運動として理解されていることがわかった。 以上を踏まえて本研究では、ポスト表象的地図学によって物質性の観点から触地図の歴史を探り、そこから障害者の情報保障の構造的問題にアプローチすることにした。本年度は、触地図に言及した言語資料を分析し、日本社会において触地図というモノが「障害」という現象とどのように結びついてきたかを検討した。そして、触地図は一見すると「平等」を志向する実践であるように思われる一方、一般的によく目にする地図とは姿形が異なるモノとして存在するがゆえに、視覚障害者を異者として差異化する契機にもなりえる、ということがわかった。そして、この研究成果の一部を国際地理学会と日本地理学会秋季学術大会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は実際の触地図作成の現場を調査する予定であったが、事前調査の結果を踏まえてアプローチの仕方を変更したため、研究の位置づけを見直すのに時間を要した。しかし、物質性を鍵概念とする新たな研究枠組みが構築され、従来の研究とは異なる視点で障害と地図の関係を論じることが可能となった。また、言語資料の分析を通じて、触地図の歴史に関して新たな知見を得られた。加えて、その結果を国外・国内の学術会議で公表できた。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度目に調査が及ばなかった①外出歩行支援用の触地図と、②駅構内の触地図について検討するとともに、③研究全体のとりまとめを行う。具体的には次の通りである。①点字図書館、点字出版所、障害者関連施設等に聞き取り調査を実施し、触地図作成に必要とされる資源は誰が、どのように獲得しているのかについて具体的な情報を得る。また、作成された触地図等の資料を収集する。次に、対象とする施設と関係のある個人・組織等への聞き取り調査を実施し、どのような知識や物的資源をやり取りしているのかについて情報を得る。②まず、駅構内の触地図のJIS規格がどのようなプロセスを経て制定されたのかを文献資料と関係者への聞き取りによって調査する。次に、事業者への聞き取り調査を行い、触地図作成に必要とされる資源は誰が、どのように獲得しているのかについて情報を得る。また、使用されているマニュアル等の資料を収集する。加えて、触地図作成を監修している点字図書館、福祉事業者等への聞き取り調査を実施し、どのような知識や物的資源をやり取りしているのかについて情報を得る。③調査結果を障害の地理学と批判地図学の視点から分析し、障害者向け地理空間情報の構造的問題を考察する。それをとりまとめて、国外・国内の学会で報告するとともに、学術雑誌に投稿する。
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