研究課題/領域番号 |
17J08829
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森山 小太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ブラックホールへの降着流 / 降着円盤 / ブラックホール物理学 / 重力 / 磁気流体シミュレーション / 放射輸送 / 相対論的過程 |
研究実績の概要 |
これまでの研究において、申請者はブラックホールに落下するガス雲からの光度変動を用いたブラックホールスピンの新しい測定法の提唱を行なった。咋年度 (採用1年目)は、この方法論の中で考慮しなかった流体効果、磁場、放射圧によるガス雲の時間変動を一般相対論的放射磁気流体シミュレーションにより取り入れ、より現実的な系でガス雲モデルを検証した。恒星質量ブラックホール 近傍の比較的低温の降着円盤からの降着流の相対論的放射を一般相対論的放射磁気流体 (GRRMHD) シミュレーション (Takahashi et al. 2016) を用いて調べ、ガス雲からの相対論的光度変動を調べた。 研究の結果、ブラックホールへの降着の新しい性質を発見した。(1) 降着円盤の最内縁領域でリングまたはアーク型のガス雲が間欠的に形成され、(2) ガス雲はほぼケプラー回転速度ををもち、ブラックホールに向かってゆっくり落下する。これらのシミュレーション結果は方法論で想定したガス雲モデルの運動をよく再現している。 また、ガス雲からの光度変動についても新たな発見があった。ガス雲の形成と落下による比較的長い時間スケールの変動 (0.08-0.10 sec) と、非軸対称なアークガス雲からのビーミング効果による短い時間間隔を持った準周期的なフラックスピーク (0.01 sec) があることがわかった。これはブラックホール連星で観測されている高振動数の準周期振動やX線ショットといった短いタイムスケールでの光度変動を説明できる可能性がある。この研究によってブラックホール近傍で観測された現象と落下ガス雲の放射現象、さらには提唱した時空測定法を結びつけるこ とが可能となった。 落下ガス雲の運動と放射の性質を、最先端の数値シミュレーションに基づき、世界初で明らかにしたことに、この研究の独創性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の、DC2申請書類の研究計画1年目に対応する研究成果を申請者が主体となって論文にまとめ、査読付き論文誌 Astrophysical Journalにて出版された。また、その中での研究成果の議論・検証を行うために積極的に国内外での発表を行った。国際会議では計2回の発表を通して、論文にまとめるための研究内容の洗練を行うことができた。 さらに、提唱した方法論の観測への適用についても申請書類で示した見通しの通りの進展があった。スピン測定法で注目したガス雲の光放射に対応すると考えられる、短時間X線光度変動のピークを、ピーク時間を基準に足し合わせ、平均するショット解析の結果と提唱した方法論で注目した光度変動との比較を行い、両者の類似性を検証した。特に活動銀河核ブラックホールArk 564のショット解析に新スピン測定法を適用し、大質量ブラックホールのスピンに制限をつけることができた。 以上の研究成果を博士論文としてまとめ、博士論文公聴会にて発表し、博士 (理学)の学位を取得することができた。 (その他の研究成果) 申請者は以上のメインの研究のほかにも相対論的数値シミュレーションを駆使して関連する研究テーマに貢献することができた。水本岬希氏 (東京大学)と共同研究では、理論モデルの数値シミュレーション コードの構築と計算全てを申請者が行い、観測研究者の水本岬希氏他と綿密な議論の結果、 出版が決定している。このように、自身の研究テーマを常に念頭に置きつつ、関連する研究にも積極的に参加し、自身の研究に還元することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
採用1年目は研究計画通りの成果を上げ、その結果を学会や論文を通して報告することに成功した。今年度は研究計画2年目に対応する、提唱した方法論を拡張した余剰次元の検出をメインテーマとして研究を行う。 余剰次元の効果を含んだ5次元ブラックホールにガス雲が落下する場合を想定した数値シミュレーションを実行する。このブラックホールに間欠的に落下するガス雲の光度変動と撮像画像を計算し、それぞれの情報を用いて2つのスピンを独立に測定する。これまでの研究から、2つのスピンは時空の異なる成分に依存するため、余剰次元の効果によって2つのスピンが異なる値を示すことが予想される。よって、見積もられた2つのスピンのズレの、余剰次元効果の強さに対する依存性を調べる。観測の想定としては将来的なVLTIやGRAVITY計画とブラックホール近傍の撮像が期待されているVLBI観測を想定する。これらの観測能力を想定した模擬観測を実行し、余剰次元の効果をどの程度の強さまで検出できるか調べる。 この研究と並行して、連星ブラックホール周りの円盤の数値シミュレーションを行う。これらのブラックホールの周りにある内縁から、各ブラックホールに向かって落下するガス雲からの光度変動を計算する。この光度変動を多数回観測した場合を考え、ショット解析を行うことで平均ライトカーブを見積もり、その相対論的特徴を抜き出す。得られた相対論的効果のスピン依存性を調べ、2つのブラックホールそれぞれのスピンを独立に測定する方法を構築する。
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