研究課題/領域番号 |
17J10971
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠田 夏樹 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 翅成虫原基 / 器官サイズ制御 / カスパーゼ / 細胞死非依存的機能 / タンパク異化・同化作用 / 紡錘体形成チェックポイント機構 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ翅成虫原基をモデルとして、[研究課題A]カスパーゼが細胞死非依存的に器官成長を促す機構の解明と[研究課題B]翅成虫原基の最大サイズを規定する分子機構の解明の2つの研究課題に取り組むことで、器官サイズ制御機構の一端を明らかにすることを目指した。 研究課題Aでは、既知のカスパーゼ基質の関与の検討と新規カスパーゼ基質の探索の両面から解析を進めた。まず、既知のカスパーゼ基質であるRNA結合タンパク質Acinusに着目した。野生型に比較してカスパーゼ非切断型Acinus変異体は翅サイズの減少を示したことから、カスパーゼが細胞死非依存的に器官成長を促す機構としてAcinusの切断の関与が示唆された。ショウジョウバエにおいてAcinusはオートファジー(タンパク質分解)を亢進することが知られていため、タンパク質分解作用、さらには合成作用に及ぼすカスパーゼの影響を検討した。その結果、ショウジョウバエ培養細胞系において薬剤を用いてカスパーゼ活性を阻害すると、タンパク質翻訳が抑制されることが明らかとなった。一方で、カスパーゼの新規基質として紡錘体形成チェックポイント機構構成因子の1つであるDrosophila BubR1を発見した。 研究課題Bでは、特殊な餌を用いた蛹へと変態しない状況では翅成虫原基も任意のサイズで自発的に成長を停止するということを利用し、翅成虫原基の最大サイズを規定する分子機構の解明を目指した。翅成虫原基成長停止期の状態について、ヒストン修飾状態の記述と細胞周期状態の記述を行なった。その結果、ヒストンの修飾状態に関してはH3K27ac修飾が成長停止期に顕著に減弱することが明らかとなった。また、細胞周期に関してはFACS及び細胞周期レポーターを用いた実験から、組織成長停止期でも成長期と比べて細胞周期の全体としての状態はほとんど変化しないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題Aに関しては当初の計画以上の進展を、研究課題Bに関しては当初の計画に比して若干の遅れを認めた。以下に理由を詳述する。 今年度は特に研究課題Aに注力し、既知のカスパーゼ基質の関与の検討と新規カスパーゼ基質の探索の両面から解析を進めた。その結果、前者の解析からカスパーゼのタンパク質同化作用への関与というこれまでに全くなかった視点を発見できた。また、後者についてもショウジョウバエの新規カスパーゼ基質を発見できた。したがって、研究課題Aに関しては当初の計画以上の進展を認めた。 一方で、研究課題Bに関しては翅成虫原基成長停止期の状態について5つの指標を軸とした記述を本年度中に終える予定であったが、5つの指標のうち2つの指標(エピゲノム状態・細胞周期)の記述しか完了しなかった。したがって、研究課題Bに関しては当初の計画に比して若干の遅れを認めた。主な原因として特殊なショウジョウバエ飼育系に問題が生じ、問題解決に時間が取られたこと(既に解決済み)、研究Aに注力するあまり研究Bへの時間を十分に確保できなかったことがあげられる。研究課題Aに関しては当初の計画以上に研究が進展したことから、次年度は研究課題Bに注力できると考えられ、当初の計画通りの進展が期待できと考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題Aに関しては、引き続き前述の2つの視点からカスパーゼの細胞死非依存的な機能の解析を行う。まず、カスパーゼのタンパク質翻訳への関与の多角的な検討を慎重に行う。特に、培養細胞系で観察された現象が生体内でも同様に確認されるかという点は非常に興味深い。新規カスパーゼ基質Drosophila BubR1に関しては、非切断型BubR1変異体ショウジョウバエをCRISPR/Cas9 システムを用いて作出する。その後、その変異体ショウジョウバエが示す表現型を細胞死と非細胞死の両方の観点から解析し、カスパーゼによるBubR1切断の生理的意義について迫りたい。 研究課題Bに関しては、本年度明らかとなったヒストン修飾状態の変化から成長期と成長停止期では遺伝子発現状態が異なる可能性が示唆された。そこで、次年度ではマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行いたい。また、研究課題Aを進める際に確立したタンパク合成検出系(SUnSET系)を利用し、タンパク質翻訳という観点を新たに評価指標に加え、引き続き翅成虫原基成長停止期の状態について記述を行っていきたい。その後、記述した状態の操作を主に遺伝学的に行い、翅成虫原基サイズに及ぼす影響を評価したい。
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