研究課題/領域番号 |
17J40016
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研究機関 | 清泉女子大学 |
研究代表者 |
茅根 紀子 清泉女子大学, 人文科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ピエモンテ / ゴシック / アルプス / 聖堂壁画 / 山 / スーザ谷 / 聖アントニウス / 写本 |
研究実績の概要 |
H29 年度頭では、ピエモンテ地方全域を研究領域としていた。しかし、当初予定していたよりも研究費が少なかったこと、また文献を収集する中で、調査対象となる聖堂数がおおよそ明らかになったことから、本計画の全体的な見直しを行った。3 年間という研究期間の中で網羅的な調査を確実に行うにあたり、本計画では、ピエモンテ地方の中でも、ドラ・リパリア河流域にあたるスーザ谷に焦点をあてることにした。流域から山岳・山麓地域を捉える手法は、内山節の思想、また報告者が所属するアルプス史研究会(7 月に参加)の議論から想を得た。平地民からすれば山麓・山岳地帯は単に標高の高い地域を指すが、山の民の視点に立てば、谷という窪みの中に山の暮らしがある。行政区ではなく流域から広大なアルプス地域を捉えていくことは、かつての暮らしにより即していると考えた。 2 月~3 月に、スーザ谷のゴシック聖堂壁画調査、ならびにイタリア・ドイツにおける文献資料収集を行った。 今回調査を行った6聖堂のいずれの聖堂壁画においても聖アントニウス像が認められ、報告者の予測通り、スーザ谷における篤い聖アントニウス崇敬が裏付けられた。また調査の過程で、スーザ司教座博物館から協力を得るなど、今後の研究の進展に重要なコネクションを作ることができた。 アルプス地域の聖堂壁画にみられる聖アントニウス伝図像サイクルの伝播の元となった写本『聖アントニウス伝』(マルタ国立図書館)の全図像の分析を行った。史料『ジャン・ドゥ・モンシェニュの旅行記』編纂については、既に古文書の解読・ドイツ語への翻訳を終えた。ミシュレフスキー氏による序文が完成次第、Antoniter-Forum 史料集第二巻としてオンライン出版を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研究が進展したことにより計画が具体化し、ピエモンテ地方のなかでも、ドラ・リパリア河流域のゴシック聖堂壁画を体系的に調査するという方針を固めることが出来た。②山の暮らしを考察した内山節の思想を援用することで、流域から山岳・山麓地域を捉えていくという、研究全体の思想的な基盤を固めることが出来た。③初年度の現地調査では、6つの聖堂を調査したが、いずれにおいても聖アントニウス像が確認できたことから、報告者の推定通り、アルプス地域において聖アントニウスが特に崇敬されていた可能性が高まった。④ドラ・リパリア河流域の美術を考察しているスーザ司教座博物館と交流を持ち、研究への支援を得ることが出来た。⑤写本『聖アントニウス伝』の全図像分析を終え、聖アントニウス伝図像サイクルの考察する基盤を固めることが出来た。⑥史料『ジャン・ドゥ・モンシェニュの旅行記』出版に向け、序文以外の部分の作業を終えることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
①H29年度の研究成果(写本「アントニウス伝」の図像分析、ドラ・リパリア河流域のゴシック聖堂壁画調査)を発表していく。②H30年度のゴシック聖堂壁画の調査は、夏に行う。標高の高い場所にある聖堂は、冬に調査ができないためである。ピエモンテ、もしくはフィレンツェのドイツ研究所にて、必要な文献を収集する。③ミシュレフスキー氏による序文が完成次第、史料『ジャン・ドゥ・モンシェニュの旅行記』の刊行を行う。これに伴い、史料を紹介する論文を執筆する。④アルプス史研究会にて成果を共有し、知見を交換する。スイス・メンドリジオのアルプス研究所との共同研究会を計画する。
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