研究課題/領域番号 |
17K00061
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
原 尚幸 同志社大学, 文化情報学部, 教授 (40312988)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グラフィカルモデル / 因果推論 / マルコフ基底 / 正確確率検定 / 計算代数統計学 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、潜在変数を含むベイジアンネットワークモデルの識別可能性についての研究を行った。離散、多値をとり、潜在変数を一つ含むベイジアンネットワークが識別可能になるための十分条件の導出を行った。昨年度は、2値のベイジアンネットワークで同様の問題を考えたが、そこで得られた十分条件が、多値の場合にも一般化できることを証明した。具体的には、識別可能なモデルを再帰的に生成するアルゴリズムを提案するとともに、逆にそれを用いて、所与のモデルの識別可能性を多項式時間で評価するアルゴリズムも示した。さらに、2値の場合も含めて、昨年度より強い十分条件の導出を行った。 また、離散の説明変数をもつロジスティック回帰モデルにおける、正確確率検定に関する研究も行った。Hara et al. (2010) などでは、マルコフ基底(マルコフ部分基底)を用いたマルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC法) による分割表のサンプリングに基づいて正確確率検定を実装されてきた。しかしながら、小標本のときなどは、定常分布である超幾何分布への収束が遅いという問題があった。本研究では、逐次重点サンプリング (sequential importance sampling) とMCMC法のハイブリッドタイプのサンプリング法を用いることにより、収束が加速する可能性をシミュレーションによって確認した。この成果はBook chapterとして掲載可となり、今年度前半には出版予定である。 さらに、マルコフ基底を用いた正確確率検定の技術に関するここ数年の研究成果を研究書「代数的統計モデル」にまとめた。本書は2019年夏に刊行予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ベイジアンネットワークの識別可能性については、おおむね予定通りであり、残りの期間で、現在の結果の拡張や、より一般の設定における考察を行う予定である。残りの2年の研究期間で十分に可能と考える。今年度前半で論文投稿までもっていく予定である。 また、昨年の成果でもある、疫学モデルにおける多重調整p値の正確計算が、昨年度英文誌に掲載された。 マルコフ基底の研究に関しては、上記の研究結果については論文にまとめ、今年度前半には出版の予定である。マルコフ基底を中心とした代数統計に関する和文の研究書を1冊書き終え、それが夏に出版される予定であり、こちらも予定通りと言える。
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今後の研究の推進方策 |
ベイジアンネットワークモデルの識別可能性の問題に関して、現在対象としているモデルは、潜在変数がソースノードであるようなモデルであるが、潜在変数の数を増やしたり、潜在変数がソースノードでない場合への一般化を目指す。また、原(研究代表者)のガウスのモデルにおける先行研究のアイディアを用いれば、現在の設定の十分条件を改良することも可能と考える。 昨年度後半から、追加で、部分識別を用いた因果効果の推定問題にも取り組んでいる。特に差分の差の設定で、ある種の欠損が存在する場合の点識別や部分識別の方法について成果を蓄積しているところである。これも追加的な成果として発表を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、参加を見込んでいた国際会議を、公務の関係でキャンセルせざるを得なくなったことと、理論研究中心で成果をあげたために、ハードウェア・ソフトウェアへの投資を見送ったことが原因と考えられる。2019年度は前半でハードウェア・ソフトウェアへの投資を計画しており、さらに成果発表の出張も多めに参加の予定である。
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