研究課題/領域番号 |
17K01175
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
宮崎 千穂 名古屋大学, 国際機構, 特任助教 (20723802)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ロシア / 医学地誌 / 鉱泉学 / 梅毒 / 長崎 / 温泉 / トルキスタン |
研究実績の概要 |
平成29年度は、「ロシア海軍における医学知の循環」という課題に取り組んだ。 帝国の医学のあり方を描くには、世界航海中のロシア海軍の軍艦から本国へ還元された医学知の循環のあり方を解明する必要がある。本研究では、19世紀後半の帝政期のロシア海軍医学における医学地誌の医学的知の成立における重要性に着目した。そして、ロシア海軍軍医の筆になる医学地誌を読み解き、1890年代より顕著にみられるロシア艦隊の日本における鉱泉治療のあり方を解明することを通して、ロシア海軍における医学的知の扱い、すなわち既存知への知的態度と医療実践とのかかわり、新たな知の形成と帝国における知の流通について検討した。また、日本の鉱泉学の歴史におけるその意味も同時に探った。 史料調査に関しては、同年度7月までに日本で入手可能な文献の調査を進め、7月中のロシアのサンクトペテルブルグ市での調査に備えた。同市では、ロシア国立海軍文書館、ロシア国立図書館において調査を実施し、関連ある史資料を発掘、収集することができた。 その後、収集した史料について、ロシア海軍軍医の医学地誌における雲仙温泉および小浜温泉の記述が何に由来し、何に信頼を置き成立しているのかなど、系譜学的な解明を行った。また、ロシア海軍が寄港地として年間を通して利用していた長崎港における同艦隊の疾病状況、その治療実践を明らかにした。 さらに、平成30年度中に開始予定のロシア陸軍等によるトルキスタン(中央アジア)を対象とした医学地誌の編成に関する予備的調査を、平成30年3月にウズベキスタンのタシケント市にあるウズベキスタン国立中央文書館にて実施した。同館門外不出の目録の調査により、関連史料の所在を把握することができ、次年度に繋がる大きな成果を得た。また、この課題に関連して、日本における中央アジア表象に関する研究成果を「シルクロード国際学術研究集会」にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、19世紀後半における帝政ロシアの海軍医学を主な研究の対象としていたため、ロシア海軍の海軍軍人、海軍軍医の筆になる公文書が集中的に所蔵されている文書館であるロシア海軍史料館にアクセスし、貴重な新資料を発掘することができた。 また、公文書の他に研究の論拠となるような19世紀の貴重な刊行史料をロシア国立図書館における調査において発見、収集することができた。 これらの調査により収集された史料を解読、分析をすることで、ロシア艦隊の長崎、雲仙温泉、小浜温泉における実際の治療のあり方や、それに関わった海軍軍医らの間での医学的知の形成のあり方など、従来詳らかでなかった問題を解明することが可能となった。これをまとめた成果は、投稿準備中である。 次に、平成30年度に予定していたトルキスタン(中央アジア)における帝政期ロシアの医療に関する研究課題に資するような史料を、ウズベキスタンのウズベキスタン国立中央文書館にて調査することができた。外国の研究者にとって同文書館に入館するための手続きは容易ではないが、この度は入館を許可され、トルキスタン総督府の医療実践および医学知の形成のあり方の解明に資するような文献の所在について調査することができた。このことは、平成30年度の課題解決に向けて大きな一歩を踏み出すことができたといえる。また、トルキスタンに関連して、副次的に日本の中央アジア表象についての研究も進めることができ、国際会議にて口頭発表を行うことができたのも、本研究課題の遂行のための助けとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、19世紀におけるロシア帝国の植民地化が進んだ中央アジアに関して、ロシア陸軍軍医やトルキスタン軍管区の軍医等によって編まれた医学地誌について、関連史料の調査および収集、解読と分析、考察を進め、19世紀ロシアの帝国医学の特質を中央アジアという地域に着目して解明する。 その際、まずは医学地誌全般の特質を描き出すことをめざすが、具体的な医学的項目、すなわち、感染症などに特化することも視野に入れている。 研究対象となる史料については、平成29年度中に予備的調査を行ったウズベキスタン国立中央文書館における調査を再開し、予備的調査をもとにリスト化した史料を優先的に閲覧、収集するとともに、新たな関係資料の目録にもあたり、次の調査に繋げられるように努める。 また、このウズベキスタンにおける予備的調査においては、平成30年度も、ロシア中央の文書館、図書館での調査が再度必要であることが認められた。そのため、平成30年度7、8月中にロシアのサンクトペテルブルグ市に赴き、ロシア国立図書館およびロシア国立文書館等にて、トルキスタン関係、帝政期の軍事医学関係の史資料の調査を行う。それに並行して、京都大学等が所蔵し日本で収集可能な『トルキスタン集成』に所収されている19世紀のトルキスタン史料についても調査および収集を進め、ウズベキスタンおよびロシアでの調査の成果と合わせて本研究を進めるための分析、考察の対象とする。 史料分析、考察の成果をまとめ、平成30年度中に国際会議等にて公表できるように準備し、その後、論文化して発表する機会を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は、物品を既存の物で補うことができ新たな物品の購入をしなかったこと、また、ロシア国立図書館における史料調査時において史料複写料金を節約することができたため、残額が発生した。ただし、平成29年度中のウズベキスタンにおける予備的調査において、ウズベキスタン国立中央文書館での貴重史料の複写料金が年代別に異なり、研究対象の年代が予定より高いことが判明したため、平成29年度中の残額の一部は平成30年度のウズベキスタン調査において執行する。また、その残りは、平成30年度も引き続き実施する必要が生じたロシア調査に際する旅費の一部にあてる。
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