研究課題/領域番号 |
17K01181
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
中根 美知代 成城大学, 法学部, 非常勤講師 (30212088)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物性物理 / 量子化学 / 杉浦義勝 / 原子・分子分野 / 量子力学 / 量子物理学 |
研究実績の概要 |
研究課題に掲げた「物性物理」という概念はあまりに漠然としているので、問題の絞り込み、今日の物理学で「原子・分子」と呼ばれる分野の形成過程に焦点をあて、物理学・化学双方からなされたアプローチを1930年代から1960-61年までに重点を置いて、包括的に検討するとして、研究対象をより限定した。なお、20世紀後半には量子化学・理論化学・計算化学がほぼ同義に使われていることを念頭において、考察することも確認した。 量子力学移入期の日本において、物理学と化学を「その学科で学び、職を得た研究者」として識別する、実際の著書や論文を見て識別する、といった作業を行った。化学向けの著作と称しても物理向けのものとほとんど変わらないと現時点では思われる。また、1920年代前半の理化学研究所・西川正治研究室において、多くの分野を横断する形で結晶構造の解析がなされており、化学者が量子力学に触れるための下地が作られていることがわかった。 リオデジャネイロでの国際科学史会議の量子物理学に関するシンポジウムで杉浦義勝と量子力学の日本への移入にかんする招待講演を行ない、あわせて情報収集を行った。量子力学発祥の地に近いヨーロッパ諸国では、著名とはいえない研究者が書いているが、先端の量子力学を学ぶ上で役に立つ教科書があったことがわかった。そのような教科書は重要視されず、影響力のある研究者の原著に触れることによって、量子力学を移入した日本との違いの一端が明確になった。また、カナダ・トロント大学訪問し、米国を対象として取り組まれた本研究課題と同じ問題に取り組んでいる研究者から資料や情報を得た。 また、国立科学博物館所蔵の長岡半太郎資料を閲覧し、杉浦が水素分子の結合状態の成果を挙げるにあたっては、長岡が重要視していた数学の分野に関心をもっていたことが本質だったことが明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度中に行う計画だった、1920年代から1940年頃までの、量子力学・量子化学に関する研究者の流れや著作の調査がまだ十分できていない。一方、調査を始めるまでは気が付かなかった、いくつかの重要な問題や論点が複数でてくるという成果があった。また、国際会議での報告やトロント大学訪問でも新たな視点が得ることができた。その両面を考慮して、「おおむね順調」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年中に行う予定だった調査を早急に仕上げることを当面の課題とする。それが出来上がった時点で、昨年度得られた新たな問題を再度検討し、当初の研究課題にどのように取り込むかを明確にする。昨年末から今年にかけて、政池明、古川安の両氏がそれぞれ、京都大学での量子力学・量子化学の状況を伝える著作を出版した。計画調書作成時にはなかった著作なので、それらを参照し、その上に積みあげる形で、京都の状況を調査し、あわせて東京の成果をまとめていく。 研究計画の変更点は上記の2点にかかわるもののみで、後はインタビュー、より広い範囲での情報の共有するための研究会の実施、国内外での海外での資料収集や口頭発表など、当初提出した計画調書におむね従って研究を進めていくが、研究グループの進捗状況を確認するための打ち合わせの機会を昨年より多く持ち、昨年の遅れを取り戻していく計画である。
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