研究課題/領域番号 |
17K01386
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
姜 貞勲 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50423512)
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研究分担者 |
戸井田 力 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (40611554)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体材料 / 血液浄化療法 / 炎症性自己免疫疾患 / ナノ材料 |
研究実績の概要 |
血中に存在する病気の原因となる物質を分離・除去する血液浄化療法(アフェレシス療法)は、薬物中毒、敗血症、潰瘍性大腸炎、リウマチなどに有効な治療手段として認識されている。しかし、血液浄化療法は大掛かりな装置と電源を必要とし、自然災害などの緊急時に対応できない弱点がある。本研究の目的は血液浄化療法を施すことが困難な自然災害などの緊急時に血液浄化療法の代替となる血中自己抗体の簡易除去システムを創製することである。新規簡易除去システムは生体内に存在するマクロファージ細胞本来の分解能力を利用するものであり、装置と電源を必要としない。簡易除去システムはマクロファージ細胞を認識するナノ分子本体と、血中自己抗体との結合に必要なプロテインG由来のペプチドから構成されている。 本研究の成功への鍵を握るのはマクロファージ細胞に対する簡易除去システムの選択性とマクロファージ細胞による簡易除去システムの取り込み量である。簡易除去システムに対するマクロファージ細胞のより高い選択性および取り込み量を実現するために、本年度は簡易除去システムの改良に重点を置いて研究を遂行した。去年に続き簡易除去システムのサイズによるマクロファージ細胞の選択性と取り込み量の変化を評価した。さらに、簡易除去システムの選択性と取り込み量に影響を与えるマクロファージ細胞の表面レセプター(受容体)の特定も行った。 来年度は、心筋炎モデルマウスを作製し、簡易除去システムの効率性と有効性を評価する予定である。心筋炎モデルマウスはブタの心筋由来のミオシンを完全アジュバントと混合して皮下に投与することで作製する。簡易除去システムを心筋炎モデルマウスに投与してから血中抗体量とサイトカイン量の変化を調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
簡易除去システムのサイズによるマクロファージ細胞の選択性と取り込み量の変化を評価するために、300 nmのナノ分子本体と100 nm以下のナノ分子本体を作製した。昨年度に、マクロファージ細胞に対する選択性は300 nmのナノ分子本体よりも、100 nm以下のナノ分子本体のほうが高かったと報告したが、本年度はサイズによる取り込み量に明らかな差があることを確認した。100 nm以下のナノ分子本体は長時間マクロファージ細胞の表面に存在しているものの、取り込み量は少ないことが判明した。一方、300 nmのナノ分子本体は100 nm以下のナノ分子本体よりも多くマクロファージ細胞に取り込まれ、マクロファージ細胞による取り込み量も時間経過と同時に増加する傾向を示した。これらの結果から、100 nm以下のナノ分子本体よりも300 nmのナノ分子本体のほうが簡易除去システムに適していることが分かった。 さらに、二つのナノ分子本体に対するマクロファージ細胞の取り込み量に影響を与える要因を調べた。100 nm以下のナノ分子本体と300 nmのナノ分子本体が結合するレセプターの違いが取り込み量の差に大きな影響を与えることを確認した。今年度は簡易除去システムの改良と評価に時間がかかり、心筋炎モデルマウスによる簡易除去システムの効率性および有効性の評価は遅れるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果に基づき、300 nmのナノ分子本体に血中自己抗体と結合するプロテインG由来のペプチドを修飾した簡易除去システムを作製する。 心筋炎モデルマウスはブタの心筋由来のミオシンをマウス皮下に投与することで作製する予定である。ブタの心筋由来のミオシン量が少ないと安定した心筋炎マウスモデルの作製が困難であることが分かったため、ブタの心筋由来のミオシンの投与量を増やして心筋炎モデルマウスの作製を行う。 心筋炎モデルマウスによる簡易除去システムの効率性と有効性を評価するために、簡易除去システムをモデルマウス血中に投与する。血中抗体量とサイトカイン量、心臓の重量変化、心臓の組織切片による炎症性細胞の浸潤を評価し、簡易除去システムの効率性と有効性を総合的に判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は簡易除去システムの改良と評価に重点をおいて研究を遂行したため、心筋炎モデルマウスによる簡易除去システムの評価は次年度に見送ることにした。したがって、当初計上していた動物実験に必要な物品費の支出はなく、未使用額が生じた。未使用額は次年度の動物実験と改良型簡易除去システムの作製に必要な物品購入費として使用する予定である。
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