研究課題
前年度に作製した口腔ケアシミュレータは、下顎骨と右片側7本の歯牙のみに力学センサが設置され、しかも下顎骨がむき出しの状態であった。そのため、実際のボランティアによるデータ収集においては、研究協力者の利き腕によってデータが偏る可能性があるとともに、シミュレータには、口唇や頬がないため、現実にはあり得ない歯ブラシの運び方をする事例も認められた。そこで今年度は、より患者に近い、リアリティーのあるモデルの製作に取り組んだ。まず下顎の左右両側14本のすべての歯牙の根部に歪みセンサーを埋め込んだモデルを作製し、すべての歯牙について、歪みをgf(グラムフォース)に変換できるようにキャリブレーションした。頬部などの軟部組織のモデル作製については、元のCTデータは口を閉じたものであり、口を開いているCTデータは入手不可能であるため、市販されている口腔ケアシミュレータ、「せいけつ君」を利用することとした。しかし、「せいけつ君」の樹脂は、実際の人の組織に比べて固くて伸展性に乏しく、歯列モデルを内部に設置しても、歯ブラシを挿入して歯磨きすることは到底不可能であった。そこで、軟部組織部分を自作するために、このモデルを水に浸して水信号のMR画像を撮影し、モデル作製のための鋳型を3Dプリンターで製作した。いろいろな硬さのシリコンラバーについて検討し、SMOOTH-ON社のシリコン樹脂EcoFlex 00-30を肌色に着色したものをこの鋳型に注入して頬部モデルを作製した。この内部に歯列モデルを設置してリアリティーのある口腔ケアシミュレータが完成した。さらに、座位の患者、仰臥位の患者を想定した設置形態をとれるように改良した。歯ブラシの正面・側面、14本の歯牙合わせて合計16チャンネルの力について一括収集が可能となり、研究組織内で基礎データの収集に着手した。
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