研究課題/領域番号 |
17K02013
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
飯塚 宜子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 研究員 (60792752)
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研究分担者 |
島村 一平 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (20390718)
山口 未花子 岐阜大学, 地域科学部, 助教 (60507151)
大石 高典 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 講師 (30528724)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地域間比較 / パフォーマンス / 演劇的手法 / 象徴 / 共有自然資源 / 環境教育 / 狩猟採集民 / 先住民 |
研究実績の概要 |
本研究では、カナダ先住民、中部アフリカ狩猟採集民、モンゴル遊牧民など異なる研究対象を持つ研究者が、調査地の相互訪問、参与観察、対話などを通じ、持続可能性概念を基軸としながら、人と自然の関係性について捉え直す。そしてそのような地域の多元性について、日本の都市生活者や児童による経験的理解をすすめるプロセス構築について探求する。 今年度は、パフォーマンスをキー概念としたワークショップ形式の10回の実践的研究会を中心に研究をすすめた。日本の都市生活とはかけ離れた狩猟採集民や先住民らの環境観や動物観を学習者が経験的に捉えるために、ロールプレイや即興劇など演劇手法を用いたワークを採用した。地域の基本情報やイメージを喚起する写真や五感に働きかけるモノなどを配置し、人類学者、パフォーマー、学習者らが、ともにパフォーマンスを行う場を構築した。プログラムの内容としては、カナダ先住民カスカを扱う「動物と話す方法」では、メディスン・アニマルや、魂を森へ還す儀礼による動物の再生などを取り上げた。中部アフリカ狩猟採集民バカ・ピグミーについて知る「ゾウのいる森で遊ぶぞう!」では、詳細な生態知識、公平な分配、精霊などを扱った。モンゴル遊牧民を扱うプログラム「ボクは大草原の遊牧民」では、遊牧の方法や共有自然資源、動物利用などの文化などを扱った。このようなプログラムの内容と構成が、学習者にどのような体験をもたらしたのかについての分析は、学習者の当事者視点からの経験を記述することを目的とする会話分析を中心にすすめている。これは、社会的行為の意味は相互行為のなかで提案し構成されるという相互行為分析の視点に基づいている。「目的―評価」のかたちに落とし込まれがちな近代の教育枠組みのなかで、地域や人間のリアリティが学び手の間に構築されるプロセスの記述をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、日本アフリカ学会と海外学術調査フォーラムにおいて、日本におけるワークショップ実践およびカメルーンでの国際ワークショップの成果について報告をおこない、多くのフィードバックを得ることができた。また、教育学研究者や小中学校教員らが組織する演劇的手法を用いた授業の可能性を追求する研究会である「学びの空間研究会」に定期的に参加し、本実践研究についてシミュレーションや議論を行った。京都府など行政との連携、京都大学東南アジア地域研究研究所共同研究共同拠点の枠組み、新たな若手研究者やパフォーマンスの専門家である俳優の協力も得て、コンゴ盆地周辺熱帯雨林の狩猟採集民、カナダ先住民カスカ、モンゴル遊牧民ら関する調査に基づいた実践的研究会を10回実施した。そして狩猟採集社会・遊牧社会などを、市民や児童が研究者とともに、自らの経験と重ね合わせて相互行為のなかで見出すプロセスを探求した。実践研究をすすめるなかで、観客と主催者を分離する劇場型のパフォーマンスではなく、地域の基本情報、モノ、動画、写真、音楽などを場に配置したイメージを喚起、人類学者、パフォーマー、学習者が入り混じって行為するロールプレイや即興劇などを総称した環境演劇・実験演劇に近いプログラムを本実践のパフォーマンスと位置づけるようになった。得られた結果について言語資料のみならず映像資料による会話分析を含めて検討会を行った。パフォーマンスをプロセスとしてとらえ多角的な視点から分析し、成果発信するとともにパフォーマンスの実践にふたたび生かすというループが生成されることが期待される。また一般読者向けのHPを開設し、実践的研究会への呼びかけや成果報告に活用する枠組みをつくった。
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今後の研究の推進方策 |
カナダのユーコン準州カークロスとブリティッシュ・コロンビア州アトリンを訪れ、狩猟採集社会であるトリンギット社会におけるセレブレイションに参加する。ワタリガラスとオオカミというトーテムを現代社会生活のなかで機能させる彼らが、自らの踊りやアートをどのように位置づけ、世代や地域を超えたコミュニケーションを行うのか、彼らが自らを表象するパフォーマンスと日常の境界をどう捉えるかなどを中心的な問いとした調査を行う。またカメルーンにおける教育と知識伝達の関係について、引き続き現地研究者やNGOと連携して取り組む。モンゴル遊牧文化における人と動物の関係についても引き続き調査を行っていく。 開発、環境、多文化共生、教育などグローバルな課題の最前線にあるのが今日の狩猟採集民である。開発や規制による地域文化の喪失・学校知へのアクセスと、生態知や伝統的経済活動の維持という異なるベクトルを架橋することが求められるなかで、パフォーマンスはなんらかの役割を果たすのか。またそのような調査により明らかとなる知見を含めた実践的研究会をさらに日本の教室内において展開し、市民や児童とともにパフォーマンスによる相互行為を軸に、共有していく。これまでの研究発表を文化人類学会、国際教育理解学会、環境教育学会などで行っていく予定であり、積極的な成果公開をおこなっていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に計画していた海外共同調査についてカウンターパートとの日程調整がつかなかったため、2019年度に調査を行うこととしたため次年度使用額が生じた。
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