研究課題/領域番号 |
17K02064
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
佐藤 千鶴子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センターアフリカ研究グループ, 研究員 (40425012)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 南アフリカ / 移民 / 難民 / 社会的統合 / 生計活動 |
研究実績の概要 |
本研究は、民主化後の南アフリカにおける移民・難民の脆弱性克服と社会的統合の課題を明らかにすることを目的としている。2年目である平成30年度も、初年度に引き続き、ヨハネスブルク市のアフリカ系移民・難民集住地区(Y地区)において質問票を用いた聞き取り調査を実施した。初年度に調査協力のための関係を構築した2つのアフリカ系移民・難民団体の協力により、平成30年度にはアフリカの15カ国出身者100名に対して聞き取りを行い、2年間の聞き取り総数は140名(男性48名、女性92名)となった。 本研究では、南部アフリカ諸国出身者とそれ以外のアフリカ諸国出身者では受入れ国南アフリカで直面する課題が異なっており、それゆえ必要とされる社会的統合策の内容も異なるという仮説を立てている。当初の計画では、南部アフリカ以外の出身国としてソマリアとエチオピア/エリトリアを想定していたが、2年間の研究を通じて、これら諸国出身者に対する聞き取り調査の実施が困難であることが判明した。他方で、すでに聞き取りを行った140名について出身国をみると、コンゴ民主共和国、ジンバブウェ、ウガンダ、マラウィの4カ国出身者が合わせて103名(全体の74%)となっている。このうちジンバブウェとマラウィが南部アフリカ、コンゴ民主共和国とウガンダは大湖地域に位置し、地理的に大きく2つのグループに分けられる。この2グループはまた、南アフリカとの歴史的関係や同国で得られる滞在資格という点でも異なっている。それゆえ、残りの期間においては、これら4ヵ国の比較を中心に据えて、研究を進めていくことにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となる平成30年度には、アフリカの15カ国出身者100名に対して聞き取りを行うことができ、2年間の聞き取り総数が140名(男性48名、女性92名)に達することができた。また、当初の想定とは若干異なる国を対象とすることになったものの、南部アフリカ諸国(ジンバブウェ、マラウィ)出身者とそれ以外のアフリカ諸国(コンゴ民主共和国、ウガンダ)出身者という2つのグループの比較をするという研究の枠組みも、2年目の聞き取り調査により確立することができた。ただし、これら4ヵ国のうち、ウガンダとマラウィ出身者については聞き取り数が相対的に少ないことから、3年目にはこれら2国の出身者に対する聞き取り調査を実施して、母数を増やすことにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の実施状況報告書に記したように、定量的調査と定性的調査を分けて聞き取り調査を実施することが困難であることが判明したため、初年度からライフヒストリーを含めた聞き取り調査をできるだけ多くのアフリカ系移民・難民に実施するという研究計画に変更をした。2年目には100名に聞き取りを実施することができ、総数は140名となった。3年目もウガンダとマラウィ出身者を中心に聞き取りを実施し、分析対象者の母数を増加する。4年目には、全聞き取り実施者の中からサンプルを選び、時間的な変化を追跡することで、南アフリカでアフリカ系移民・難民が抱える統合の課題を明らかにする方向で研究を進める。 加えて、現地調査が実施可能な国については、移民・難民を送り出す要因や彼ら/彼女らの帰還の見込みを検討するために、出身国の状況についても現地調査を実施することにしたい。具体的にはウガンダとマラウィを想定している。本研究の主眼は、受入国南アフリカへの社会的統合策を検討することであるが、同国では法改正により、非正規移民や難民申請者に対する取り締まりが強化される傾向にあり、外国人に対する暴力的な排斥事件も頻発している。そのため、受入国への社会的統合という選択肢の実現可能性が非常に低くなった場合に移民・難民がとりうる別の選択肢の可能性を探る必要がある。 研究を遂行する上での物理的な課題は、ヨハネスブルク市Y地区の治安の悪化と、調査協力団体のうち1つの団体が内紛により、現在、事実上の活動停止状態となっていることである。そのため、治安状況や団体の状況を見極めながら、現地調査の実施時期などを決めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度には、別予算で比較的長めの現地調査を実施することになった一方で、本科研費で行った現地調査は当初の計画よりも短くなったため旅費が安くすみ、次年度使用額が生じた。 令和元年度には、未使用額と合わせて、助成金の大部分を南アフリカ、ウガンダ、マラウィでの現地調査費(調査補助員の謝金を含む)として使用することを計画している。
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