研究課題/領域番号 |
17K02083
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
浅井 美智子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 客員研究員 (10212466)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 卵子提供 / 代理出産 / 遺伝子診断 / 不妊治療 |
研究実績の概要 |
本年度は、「不妊治療」によって子どもができなかった人(女性:以下同様)ができた人より圧倒的に多いという事実に着目した。つまり高度不妊治療を行うということは、多大なリスクと消費を伴う。つまり、高度不妊治療に費やした時間や費用に加え、その医療の周辺技術や医薬食料品(たとえば鍼灸や身体エクササイズ、漢方やリラクゼーションなど)にも経費や身体をかけている。それでも子どもできた(成果を得た)人は報われたと思うが、圧倒的に多い子どもができなかった人々は顧みられることがない。高度不妊治療の陰で、こうした消えていく女性たちの声を収録することには重要な意味がある。何をどのように集積するかを本年度はまとめることができた。これをもとに、最終年には調査を行い、日本の社会において、体外受精などの高度不妊治療ばかりでなく、広い意味での不妊治療において、何が必要かを明らかにしたい。 本年度の最大の成果は、過去の科研費による不妊治療の調査結果を中心に、『日本における生殖医療の最適化』(大阪公立大学出版会)として書籍にまとめることができたことである。この書籍にまとめた最大の意義は、日本の高度生殖医療の技術は世界の中でもきわめて高いレベルにありながら、体外受精の実施サイクルに見合う出生をみることがない要因を明らかにしたことである。これは技術の問題ではなく、子どもを産むことをめぐるさまざまな要因が原因している。第一に不妊治療を行う女性の高齢化に伴う卵子の老化、第二に、倫理的是非はともかくとして提供卵子が実質おこなわれていない、第三に高度不妊治療の在り方について、専門の医療集団が決定していることなどが明らかになった。今後、高度不妊治療および子どもを産むことについて、開かれた議論を行うための新たな視点を提起できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
不妊治療を行っている日本人カップルの多くは卵子の老化に悩んでいる。提供卵子を求めて海外に行く人々がかなりいる。本研究では、研究当初、卵子保有率が高いスペインに渡る日本人がかなりいるため、彼らの動向とスペインの提供卵子による体外受精の実態を調査することにしていたが、研究を始め、スペインの現地状況を調べてみると、日本人が不妊治療のために出向く外国はかなり分散していることがわかった。提供卵子を求める人々は自己の予算やどのような卵子を希望するかで出向く国が異なることが明らかになった。また、海外に出向くのは提供卵子を受けるばかりでなく、代理出産を依頼する人々も増えていることがわかった。出向く先は東欧、ロシアである。 以上の結果から本研究は提供卵子や代理出産を求める人々を追うことを断念した。つまり海外に卵子や代理懐胎を求める人は経済力があり、また海外の不妊治療の事情を知ることがかなりできる人々に限られていることが理解された。このことから逆に浮き彫りになったことは、不妊治療を行っても子どもをえることがかなわなかった人々がかなりいるということである。そのため、本研究の調査方向を変更したいため、研究がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、不妊治療を行ったが子どもを妊娠・出産がかなわなかった女性たちが相当数いることに着目した。彼女たちは不妊治療に身体、経済、時間をかけ、そして何より精神的に傾注してきた。しかし、それが報われなかったあと、どのような意識でいるのかを明らかにすることが重要だと結論した。とりわけ、不妊治療の過程で凍結した自己の卵子や受精卵をそのままにしている人たちも多い。そこで、不妊治療をやめた女性たちの生殖身体への意識を調査することにした。そのためのリサーチを行っていたため本研究がやや遅れている。しかし、現在調査協力者を得て、また、不妊治療をやめた女性たちの団体への調査を行うための準備を行っている。 これまで、プレ調査において、不妊治療を行ってきた女性たちが行ってきたことは、不妊治療そのものばかりでなく、その周辺医療、たとえば、鍼灸やスポーツジム、漢方などの東洋治療などである。これまで本研究では、体外受精を中心とした西洋治療にだけ目を向けてきたが、不妊治療はその周辺領域の準専門家集団がより強固に不妊治療と結びついていることが明らかとなった。そこで、本年度は最終年ではあるが、不妊治療をやめた女性たちへのアンケート調査および聞き取り調査を実施することにした。このような調査はこれまでになく、体外受精による不妊治療の周辺で何が起こっているかを明らかにすることにはかなり意義があると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本人カップルが提供卵子を求めて出向く外国がかなり移動しており、研究計画当時はスペインがかなり注目されていた。そのため、欧州一の卵子保有国であるスペインへ調査に赴く計画を進めていたが、研究過程で日本人が卵子を求める外国は、それぞれの条件によりかなり分散していることが明らかになった。また、近年の日本人の経済力低下により提供卵子を受ける場合、近場、たとえば、台湾などが選択されることが明らかになった。そのため、本件研究では提供卵子や代理懐胎・出産を求めて海外に出向く女性たちへの調査がそれほど重要でないことが明らかとなった。そこで研究の方向を変え、体外受精等の不妊治療を行ってきたが、最終的に子どもを得ることがかなわなかった女性たちにとって、卵子や妊娠出産がどのようなものであったのかを明らかにする調査を行うことにした。その調査準備を行い、次年度調査するための費用とした。
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