本年度は本研究の最終年であり、最大の研究成果は2020年12月に制定された「生殖補助医療の提供等およびこれにより出生した親子関係に関する民法の特例に関する法律」について吟味し、この法の根本的問題を指摘できたことが最大の成果である。その成果は『「家族」を変える体外受精』(大阪公立大学出版会)にまとめることができた。 1949年に初めて実施された第三者が介在する人工授精(AID)から70年あまり、この技術に依拠して子どもを得た家族の葛藤は放置されたままであった。しかも、日本で1983年に初めて体外受精が実施されて以降、第三者が介在するさまざまなバリエーションによる子どもを産出し続けてきた。しかし、ようやくできた生殖医療法だが、この法は長きにわたり放置されてきた生殖医療が生み出した問題を何も解決していない。その代表的な問題は、精子卵子の提供者が子どもに明示されない、経済的格差を利用した卵子提供や代理出産が横行している(卵子や代理懐胎・出産は金銭で代理できるものか)、卵子提供者や代理母の健康被害が考慮・補償されていないなどである。この法に最も欠けているのは、生命やひとの誕生に対する倫理が欠如していることである。 本書は、1996年から2005年までの生殖技術により生み出された問題を検討している。2005年以降産出された生殖医療の問題を検討した『日本における生殖医療の最適化』(2019)において指摘した問題、どれもこの法は解決できていない。両書によりそれを明らかにできたことが大きな成果である。 長きにわたるコロナ禍により、本研究は大きな変更を何度も余儀なくされたが、日本では生命倫理、人権という視点から生殖医療を根本的に論ずることが重要であることが明らかとなった。
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