研究課題/領域番号 |
17K02149
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
李 桓 長崎総合科学大学, 工学研究科, 准教授 (30341556)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 被爆建造物等 / 長崎 / 原爆遺構 / 保存・再生 / 歴史の記憶 |
研究実績の概要 |
2019年度は、前半において長崎市のリストアップした「被爆建造物等」についての再調査を前年度につづいて行い、後半において「被爆建造物等」の背景、経緯、実態、問題点などについて総括を行った。 再調査を通して、「被爆建造物等」の最新の状況を記録し、基礎資料の作成をし、そして、被爆50周年当時、「被爆建造物等」のリストの作成に携わった主要メンバーについてヒアリング調査を行った。総括については、原爆直後の米国戦略爆撃調査団(以下「米調査団」と略す)による調査資料を分析し、現在の「被爆建造物等」と当時の調査一覧との相互関係、特徴などについて考察・分析を行った。 以上のような調査と総括的な分析を通して、いくつかの重要な発見が得られた。①長崎の「被爆建造物等」のリストの作成については、米調査団の資料を参考しつつ、当時として原爆被害の比較的軽いと考えられた旧市街における建造物が、「被爆建造物等」のリストに加えられた。②米調査団の調査自体は原爆の「効果」を図るもので、重要建造物へのダメージを重点的に見る傾向があるがため、爆心地より北部の調査資料は相対的に少なかった。③よって、今日の「被爆建造物等」のリストは①と②の背景において形成されている。④リストアップされたものと「被爆建造物等」の取扱基準とは必ずしも整合性が見られないところが見出される。⑤一方、被爆建造物に値するものがリストアップされていないことが生じており、リストを根底から見直す必要性が出ている。⑥そもそも「被爆建造物等」という概念規定は適切なのか、歴史の記憶の観点から再検討の必要性が出ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度(令和1)は、研究の3年目にあたり、本来ならば、全体的なまとめの研究計画であったが、前年度(平成30)は旧長崎警察署という個別事例の調査と保存に多くの時間が使われたため、全体の調査の遅れが一因であった。それに加え、調査と研究を深めることにより、これまでに研究対象としてきた長崎の「被爆建造物等」の既存のリストが根底から見直す必要性が新たな課題として浮上してきた。つまり、「被爆建造物等」の現在のリストの客観性、合理性、論理性などが再評価されることが必要となったのである。これにより、当初予測していた研究計画も多少の修正を行い、既存のリストをそのまま、都市計画を構想する前提条件とするのではなく、新たなリストの可能性を探り、新しい原爆遺構群を基礎とした理論の組み立てと見通しが必要となったからである。従って、もうすこし時間を使って、理論を丁寧に組み立てたい。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定の研究計画を、1年の延長申請をした。 令和2度は主として、既存の「被爆建造物等」の問題点とそれを乗り越える新たな原爆遺構の体系の可能性を理論的に構築していく。可能であれば、これまでにリストアップされていない対象を取り上げ、検証の必要性を明らかにしていく。そして、歴史的な記憶という観点から、全体の理論体系をまためていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査はまだ継続中のものがあり、次年度においても調査を続ける必要があるためである。 使用計画としては主として、継続調査のための交通費、調査に必要な物品・消耗品、及び研究成果を学会にての発表、資料作成の使う予定である。
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