研究課題/領域番号 |
17K02181
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
清水 正之 聖学院大学, 人文学部, 特任教授 (60162715)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本倫理思想史 / 日本哲学史 / 関係の倫理学 / 和辻哲郎 / 人文知 / 近代日本の倫理学 |
研究実績の概要 |
近代日本の倫理学史のなかの自他の関係、自己と共同性に関わる「関係の倫理学」というべき問題圏を扱った倫理学を再考し、得られた基礎的知見をもってその再構築の手がかりとする研究である。まずは、中核的な位置にある和辻倫理学の「間柄の倫理学」を対照軸として、その体系性に完結させての理解におわらせないで、倫理思想史的な考察もくわえて相対化する。ついで和辻の影響を受け形成された倫理思想、他領域に及ぶ人文知をあわせて考察し、その成果をあらためて倫理学的考察に還流させて、近代日本の倫理学的営為の意味を再検討し再構築することを意図したものである。 第一年度にあたる平成29年は、(1)間柄の倫理学の相対化 (2)和辻倫理学の相対化と人文知への広がりの探求 (3)戦後の「関係の倫理思想史」(4)伝統的倫理思想と近代の「関係の倫理学」との連関の解明 (5)方法上の問題の解明(関係を問う倫理学は多くの場合解釈学との親近性があることをとくに解明する)、さらに(6)問題の普遍化のため、国際的な視野のなかにある日本哲学倫理学を、関係という視点から、単に内に閉じた文化論としてではなく、方法的にも内容的にも普遍的な哲学・倫理学の言語に表現する道をさぐることも本研究の問題の展開のために、重要な目的として研究を遂行した。とくに哲学的思索の後をあとづけ、その哲学史的連関を明らかにすること、また倫理思想史的考察によって、単に影響関係を見るだけでなく、基礎経験の分析・記述を、倫理学の体系的思索につなげるべく努めた。平成29年度は、とくに上記論点の(1)(2)(4)(5)について、論文公表・講演・研究発表等の成果を得ることができた。他方で、若干の課題について、とくに課題(3)については当初の研究計画にそって、次年度以降に持ち越した部分もある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を通じて、問題意識の新たな展開もあり、成果を関係論文あるいは講演の形で発表できた。とくに(1)間柄の倫理学の相対化 (2)和辻倫理学の相対化と人文知への広がりの探求 (3)戦後の「関係の倫理思想史」(4)伝統的倫理思想と近代の「関係の倫理学」との連関の解明 (5)方法上の問題の解明(関係を問う倫理学は多くの場合解釈学との親近性があることをとくに解明する)、そしてさらに(6)問題の普遍化という研究全体の目的を立ててきたが、(1)と(4)については、『ホモ・コントリビューエンス』(未来社)所収の石田梅岩についての論考、また(1)と(2)および(4)に関しては、日中哲学フォーラムにおいて招待講演として『思想史研究と「関係の倫理学」再考』という発表および予稿を提出できた。さらに(4)について、和辻哲郎的な解釈学的倫理学の成立以前の道徳哲学の現状を『明治の道徳哲学とキリスト教』という表題の論考を『福音と世界』に掲載することで、問題提起と今後の展望が拓かれたと認識している。おなじく伝統的思想との関係では、日本の思想の基底にある人為と自然との、関係の倫理学に深く関わる論点を、『年号と暦法ー作為(人作)と自然(神作):本居宣長』という題目で国立民俗博物館でのシンポジウムで発表し、論点の東アジアでの普遍性を確認できた。上記の6つの項目にわたる論点のうち、その大半について、研究の方向の手掛かりを得ることができたと考えている。なお6項目の内、(3)戦後の「関係の倫理思想史」については伝統および近代をおもに考察対象とした今年度では、十分な言及ができなかった。とくに最終年度の課題である。なお『生きる意味 キリスト教への問いかけ』という共編著において、第8章「関係の倫理学―交わりへの内在と超越―」において近代日本哲学史・思想史におけるキリスト教と「関係」をめぐる思索と意義を論じた。
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今後の研究の推進方策 |
あらためて、和辻の間柄の倫理学を参照の軸としながら、考察を広げる。すでに申請者がかつて考察した土田杏村と三枝博音の自他の共同性の議論は、和辻の個人主義的否定の上に築かれた関係の倫理学とは、その発想・結構をおおいに異にしているが、本研究主題のもとで、一層精緻に検討していきたい。その際、三者の解釈学への態度がひとつの問題になる。解釈学と現象学の間をゆれながら、最終的には解釈学的立場に戻る和辻に対して、土田、三枝は、解釈学に深く関わりながら、その歴史的な負荷の重視を批判し、和辻的な問題構成と異なる関係をめぐる思索を展開している。その方法論的な対応には、土田は大乗仏教とくに華厳経の独特な解釈により、三枝の場合は神道の倫理思想および超越観の理解が大きく作用しているように見える。また近世の国学思想、とくに富士谷御杖を両者ともに評価するが、その背景に、仏教・神道の理解が大きく関わっているように見える点を明らかにしていく。 以上の考察をもとに、課題(3)の戦後思想との連関をつける視点を、日本近代の先行する時代と事象をとおして、深めることを平成30年度の課題として集中して解明していく。その際とくに大正期の哲学的思想の「生活」という視点と倫理学との関係を、解釈学的方法論の立場をとった和辻、土田、三枝等の哲学的思想家の内在的分析をとおして、倫理思想史的に追求し深化させていくことを重要な研究上の当面の目的としたい。 なお本研究の課題全体の普遍的意義については、平成30年度は、北京で開催される世界哲学者会議に参加し、とくに日本哲学および倫理学の分科会に参加し、問題意識、視点、方法を他の文化圏の研究者から学び、摂取し、本研究の一層の進展に役立たせたい。
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