当初の研究計画には新型コロナの影響で若干の遅れが生じたが、本来の第3年度の研究目的に添う研究を持続した。本研究は、和辻哲郎を対照軸として、近代日本の文献学解釈学的方法における「関係」をめぐる思索をてがかりに、それと密接な親近性をもってきたキリスト教的思索の関係概念を明らかにし、最終段階では、関係概念の社会学化という方向の思想的傾向の検討をさらに加えて、論点を相対化し深化させることを目論むものであった。解釈学的方法と、キリスト教的関係概念は、親近性をもつとともに、和辻自身がそうであるように、個と個の関係の社会学的側面に眼差しを向けていく経緯があり、その機序を明らかにしようとした。 2022年度は、この年度の本来の研究目的であった以上の諸点について、学会誌論文は発表できず研究期間完了後の課題となった。他方で、本研究全体の主題に関わるものとして、国文学資料館の鼎談(シンポジウム)の招待講演において、「関係」という概念を「超出」したように見える勝小吉の作品を扱い、異なる視点から思想史を振り返る機会を得て、意義深い成果となった。 また、倫理学・哲学の領域に限らない人文学の他領域にわたる本研究の主目的に関わるものについては、『共に育つ ”学生×大学×地域”』に特別寄稿として「大学理念とボランティア活動の意義」という論考を発表した。その論考で、1960年代からの世界的な環境思想の展開をふりかえりつつ、個人主義的な環境思想が変化し、地域ないし共同体の中で「関係」を生きるという問題意識が芽生え深まり今に至る、というプロセスを思想史的に考察することができ(172-3頁等)、本研究の視野を広げることが可能となった。 以上の成果を踏まえ、今後、思想的遺産の内在的な理解を基底におきつつ、倫理思想史の可能性と人文学の可能性とを、相互に関連づけて考察する研究的成果を、さらに公表する予定である。
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