研究課題
8月、西安の陝西歴史博物館の「唐代壁画珍品館」で、706年改葬の懿徳太子墓の青龍と白虎の壁画を実見した。上部は残存しないが、後脚の膝前方部の文様や、膝と踝の間にある関節の表現など、初唐期の龍図像の一典型となる図像を確認できた。10月末~11月初め、甘粛省の敦煌莫高窟で隋代の龍を中心に調査した。調査対象は塑像では隋の第302窟・第303窟の須弥山下の4頭と中心柱龕ビ(仏龕縁の両端)の龍、隋の第417窟・第418窟・第419窟・第420窟・第422窟・第423窟・第427窟、北周の第430窟、初唐の第57窟の龕ビの龍、絵画では隋の第390窟・第404窟・初唐の第57窟の龕ビ、隋の第392窟窟頂藻井、第244窟東壁北側中段北端説法図、第335窟西龕頂労度叉闘聖変である。絵画の場合は塑造と同じ龕ビの龍であってもより細かい表現が可能なためか、太めの塑造に比べ体部・脚部・角が細長い。これら敦煌の隋を中心とする龍の作例は、上顎の反り方、鬣、角、口角の毛の形などが比較的単純で、華原磬の龍のように眉や口角に棘状の突起がつくものや角が内側に巻くものは見当たらない。また、華原磬のような背鰭、鼻の付け根から伸びるドジョウのような二本の紐状の鬚の表現は、塑造・絵画とも確認できなかった。この2点は龍の形状の中でも華原磬との関係を探る上で重要と考えられるため、さらに他の時代・地域の作品と比較し、いつ頃から出現するのか確認する必要があるだろう。なお、以前から報告者が華原磬の龍の身体全体の形との類似性から注目していた莫高窟第244窟東壁の天部像に巻きつく龍は、今回の調査で子細に観察したところ、全身に鱗が細かく描かれていることなどが確認できたが、鬣や角の形、背鰭とドジョウ様の鬚がないことは他の莫高窟作品と共通している。龍についてはひきつづき調査作例を増やした上で次年度に詳細な分類とまとめを行いたい。
4: 遅れている
2018年度後半に勤務する博物館で、年度初めには予期していなかった図録編集作業が2件開始し、調査結果のまとめや文献収集に当てる時間が不足したため、研究の進行は予定より遅れている。
中国現地調査として、北京の国家博物館の鳥獣図像作品の調査(6月予定)、敦煌莫高窟の初唐期から晩唐期の窟を中心に龍と獅子の図像調査を継続する(11月に実施予定)。龍については特に背鰭の表現とドジョウ様の鬚の有無に注目し、華原磬との関係性を探りたい。文献調査が遅れているため、昨年度予定していた内容をひきつづき実施する。『法苑珠林』その他の中国仏教文献、宋代までの史書、類書、敦煌変文から龍と獅子の記述を収集し、分類を試みる。また、『山海経』(南北朝期の郭璞注)から祥瑞に関する鳥獣の記述を収集、分類し、仏教的な鳥獣との性格の比較を試みる。12月~2020年1月にかけて、勤務する早稲田大学會津八一記念博物館の展示室で「中国の霊鳥・霊獣」展を実施し、これまでの研究成果の一部を一般に公開する。
2018年度後半に予想外に本務の仕事が増加したため、予定通りの調査研究をこなせず、予算も消化できなくなった。今年度は不十分な文献調査を精力的に進めると共に、中国美術作品の現地調査として、北京の国家博物館作品調査(6月予定)、西安または洛陽の博物館所蔵品の調査(8月)、敦煌莫高窟の作品調査(11月予定)を実施するほか、早稲田大学會津八一記念博物館における「中国の霊鳥・霊獣」展の実施(2019年12月5日~2020年1月31日予定)を計画している。
すべて 2019 2018
すべて 学会発表 (1件) 図書 (1件)