薩摩塔を中心とする九州の中国渡来石造物について、研究を深化させ、調査報告書を執筆するべく調査を進めた。とくに中心的な存在である薩摩塔に関して、対比的に検討することでその特質を浮かび上がらせるべく、東大寺南大門の石造獅子をはじめとする、畿内の中国系石造物についても実見調査を重ねた。そのような中で、兵庫県たつの市の室津に宋風獅子が三躯存在しているという情報に接し、それらの調査も行っている。薩摩塔と宋風獅子は、一具としての安置が想定される場合もあり、深いゆかりをもつ中国渡来石造物である。その中で、九州西側にのみ存在し、制作時期も13世紀から14世紀の早い頃に絞られる薩摩塔に対し、九州のみならず、山口、岡山、京都にも存在し、この度新たに兵庫からも見出され、そして13世紀から15世紀にわたる制作時期が想定される宋風獅子は、日本に所在する中国渡来石造物について、さらには渡来文物受容のあり方について、その多様なあり方を具体的に明らかにする上で、やはり薩摩塔と並んで重要な存在であることが、あらためて認識された。なお、本来本研究は、朝鮮半島系の彫像についても調査研究を行い、大陸渡来彫像とその受容の輪郭を示すべく考えていたものであったが、日韓関係やコロナウイルスの感染拡大という、予期し得なかった要素に大きく影響されて、結果として朝鮮半島系の彫像については、国内の個別作品の調査や位置づけにとどまることになった。このことについては機を改めることにしたい。今回の研究では、個別作品の写真と情報の集積が進んだことはもちろん、薩摩塔について、これまで海商たちの信仰施設の一種だとしてきたことに加えて、筥崎宮ゆかりの恵光院の南宋時代の石造物なども参照しつつ、泗州大師信仰との関係の可能性を想定するに至ったことなども大きな成果であった。研究を次の段階に引き上げる礎を、数々設けることができたと考えている。
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