研究課題/領域番号 |
17K02424
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 剛生 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30295117)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 和漢聯句 / 北条氏康 / 三条西実澄 / 妙心寺派 / 武田晴信 / 古典学 / 今川義元 |
研究実績の概要 |
まずは前年度から取り上げている小田原北条氏の文学関係史料について引き続いて調査を進めた。11月には町田市の泰巌歴史美術館で、新出の飛鳥井雅綱・三条西実澄・北条氏康等詠草を閲覧撮影し、書誌を詳しく調査することができた。これは永禄三年(1560)秋、小田原で開催されたと推定される続歌会の一座であり、計16人の歌人が出詠している。初めて作品の全貌が知られる小田原歌壇の史料であることから、紹介と考察を兼ねて、北条氏康の文事に関する論文を2本執筆した。 また10月には、かねて懸案であった武田晴信主催、天文15年7月の世吉和漢聯句の原本調査をすることができた。所蔵者である甲府市の積翠寺に赴き、あわせて実地踏査も行った。これを受けて、12月には詳しい解題と注釈を刊行できた。 そして、いわゆる戦国軍記については、文事に関する記事がこれまで十分に考察されていなかったことを顧みて、北条五代記・異本小田原記について、戦国史料叢書の本文と、写本・刊本の本文とを比較して、分析した。また武田氏でも同様に、史料としての信憑性が盛んに論じられている甲陽軍鑑について研究すべく、刊本・写本の比較などの基礎的作業を進めた。 コロナ感染症の流行のため、これ以外には文献調査はほとんどできなかったが、8月には上田市の生島足島神社にて武田氏関係の文書の展観を見学し、9月に金沢市の本龍寺に赴いて、所蔵の文書典籍を調査した。宗祇に関係する江戸期の俳文のほか、二条良基自筆と思われる仮名書状など貴重な史料を閲覧、撮影した。 以上の実績によって、武田氏・北条氏・今川氏の戦国三雄の文学事績について、考察を深めることができた。大名の文事につき、介在した禅僧や時宗僧の働き、また東国における三条西実澄の影響力など、今まで見過ごされた新たな重要課題を見つけることができ、この時代の文化を論ずる軸を探し当てたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ感染症のために、文献調査には制限があったが、和漢聯句の注釈、新史料の紹介において成果があり、論文を執筆することができた。武田晴信主催の和漢聯句については、知名度も高いせいか、刊行された注釈についての意見も寄せられており、手応えを感じている。また今川氏・小田原北条氏についても視野に入れたことで、研究の幅が生まれた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ感染症のために、研究の最終年度に予定していた、越後上杉氏の文学に関するシンポジウム・講演会などが不可能になった。そのかわりに、日本文学研究ジャーナル19号(古典ライブラリー)において、末柄豊氏とともに、「室町戦国の文芸と史料」というテーマの特集を企画し、2本文学・日本史の研究者7人の論文寄稿をお願いした。現在鋭意編集中であり、本誌は2021年9月に刊行される予定である。これまでにないコンセプトの特集であるが、この科研費での研究目的に最も適っており、成果が十分に生かされると思われる。 また、これまで、武田氏・上杉氏に加えて、今川氏・北条氏関係史料を相当に多く発掘することが出来たことから、これらを併せての東国戦国大名の文学をテーマとした論文集の刊行を準備したい。これらをもって、研究の総まとめとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は本来研究の最終年度であったが、コロナ感染症のため、予定していた文献調査、企画が中止となり、開催の見通しが立たないため、やむを得ず研究期間を延長し、科研費を翌年に繰り越したものである。五年間の研究のまとめとして、「室町戦国の文芸と史料」と題した雑誌特集を企画しており、そのための調査、複写の被用、および編纂の経費として計上する。
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