東北地方の諸藩の藩主及び文人藩士による歌枕の名所設定に関して、従来の和歌研究とは異なる新しい観点から新しい論文を数多く作成・執筆し学会誌等に発表した。また間もなく(2021年の前期)それらの研究成果を示す著書を刊行する。 コロナ禍で調査旅行が思うように出来なかったが、それ以前の調査旅行で各地の図書館・資料館・博物館等で閲覧・撮影した、これまで未調査であった新資料を多量に蓄積してあるので、それをもとに研究を遂行し、所期の目的をほぼ達成することが出来た。 新しい成果を一つあげてみる。従来の歌枕・名所の研究は、都の歌人たちが遠国の歌枕を想像し、あるいは、その歌枕を詠んだ古人の歌をふまえて追従的に歌を詠むという習慣なので、その歌枕が時代と歌人によって、どのように詠まれ方が変化してくるかを捉えるものであった。都中心、著名歌人中心の和歌研究であり、かれらの表現史を明らかにするものであった。 本研究は、和歌の根本にあるのは、和歌は神世の昔から詠み継がれているものであって、和歌の歴史=国家の歴史、つまり和歌=日本という強力な観念である、という立場から研究を進めてきたし、現在も進めている。歌枕の名所を造ることは、東北地方の諸藩にお藩主の指示のもと広く行われてきたことであった。それ以前、すなわち室町時代においても、すでに地方では歌枕の名所を造ることがなされていた。また和歌は、平安時代から日本人は身分・性別に関係なく誰もが詠む、そう言う国である。よって日本の「風俗」(くにぶり)であると認識され、そういう観念を継承することとで江戸時代へと続いてきた。それゆえ、地方に眼を広げて、日本および日本人にとって、和歌とはどのようなものであったかを、これまで知られてこなかった資料を発掘し、それを分析することによって新しい研究の成果をあげることができた。
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