令和4年度においては、エリザベス朝王朝交替期における宗教・政治関係の研究書、および諷刺文化と演劇興行に関する文献・資料を収集した。あわせて、後継課題である諷刺文化とジェイムズ朝悲劇との関係性解明のプロジェクトの第1弾として、17世紀初頭のイングランド史劇を対象に、諷刺文化とジェイムズ朝悲劇から補助線を引くことで検証を試み、その成果を研究会で発表した。(「17世紀初頭のイングランド史劇を再考するー初期ジャコビアン・トラジディと諷刺文化を補助線として-」、「エリザベス朝英国史劇における民衆のイングランド王国表象」第3回研究会、2022年8月10日、於秋田市にぎわい交流館AU。) 本課題の研究期間全体を通じて、エリザベス朝王朝交替期に台頭した諷刺文化の実態ならびに動態を詳細に分析し、それらが演劇興行に与えた影響や、演劇の展開をどのように屈折させたかについて調査を行い、該当時期の演劇史の見直しを行った。具体的には、諷刺文化の影響が最も顕現化した現象である「詩人戦争」に関連する劇作家である、John Marston、Ben Jonson、Thomas Dekker等の「詩人戦争」における役割と実際を、時系列に精緻にたどり直し、これらの劇作家の諷刺劇個々の分析と戯曲同士の影響関係を洗い直すことによって、諷刺文化の様態を鮮明に記述した。その上で、諷刺文化の様々な要素が流れ込んでいると考えられるパルナッソス3部作を分析し、この戯曲が同時代の諷刺文化を客観的に総括したものであることを立証した。
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