研究課題/領域番号 |
17K02494
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
日臺 晴子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40323852)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英米文学 / 18世紀 / 博物学 / 書簡体 / ネットワーク / 想像力 |
研究実績の概要 |
本研究は17世紀から19世紀までの博物学者の著作における文学的要素が果たした意義について、通時的分析を行うことを目的とする。平成30年度は、Gilbert WhiteのThe Natural History and Antiquities of Selborneが採る書簡体形式が、植物と動物、生物と人間などを繋ぐネットワーク的想像力の発露の場として適切なものであったことを明らかにした。イギリスでは、大英図書館と王立協会の図書館で18世紀の書簡体の流行とその社会的・文化的影響、自然哲学研究における書簡体の位置づけに関する資料を収集した。調査の結果、博物学の専門書において書簡体形式の採用が非常に特殊なことであることがわかった。そこで、Whiteの他の著作物および伝記や手紙を調べたところ、Whiteの書簡体に対するこだわりが浮かび上がった。更に、18世紀イギリスの郵便事情や、手紙のマニュアル、手紙がもたらした社会的・文化的変化について調べた。また、Whiteの論文が掲載された王立協会のPhilosophical Transactionsでの書簡体形式の論文の受容状況やその特徴について資料を調査した。書簡体をめぐる18世紀の社会、文化および自然科学界の文脈を辿った結果、他人や社会、専門家集団などとの繋がりに書簡体の価値が見出されていたのはもちろんのこと、当該作品は種類の異なる話題や議論を包含する書簡体という柔軟性のある媒体によって、複数の観察報告がゆるやかな繋がりを持つような効果を上げることに成功していることが明らかになった。書簡体形式がもたらすゆるやかなつながりが、この作品を現代のエコロジー概念に近づけていることがわかった。また、Whiteが執着した書簡体形式は、図鑑的に博物学誌を書く18世紀の博物学研究の主流に対するカウンター・ナラティブとしてもとらえられるという考察に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の研究に関しては、概ね計画通りに進めることができた。しかし、未完となっている平成29年度の研究として挙げていたJohn Rayの作品分析をGilbert Whiteへと繋がる博物学者の系譜の中に取り入れた形で研究を進めることができなかったため、このような進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、Charles KingsleyとPhilip Henry Gosseの博物学の著作分析を中心に研究を進めてゆく予定である。近代科学が勃興し、博物学が動物学や生物学へと高度化してゆく流れの中で、科学ナラティブとは異なる文学的表現を用い、想像力をも介入させた分析を行うことの意味を考察する予定である。その際に、Kingsleyが創設した自然科学と文学と芸術の発展のためのイギリスのChester Societyを訪れ、Kingsleyに関する資料を収集する予定である。また、平成31年度は、本研究の最終年度となるため、平成29年度からスタートしたイギリスの博物学における文学的想像力と経験的事実の関係についての研究のまとめとして、17世紀のJohn Rayから19世紀のKingsleyとGosseに至る博物学者の系譜を意識した考察を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に予定していた海外での資料調査が、校務と重なったため中止せざるを得なかったため、その分の経費が繰り越されている。平成31年度は、校務の調整をし、平成30年度に引き続いて海外での資料収集を行う予定である。
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