研究課題/領域番号 |
17K02496
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 太平洋表象 / 英語圏文学 / R. L. Stevenson / Louis Becke / LMS missonary |
研究実績の概要 |
前年度からの継続課題である、19世紀前半の宣教師たちの太平洋言説と、その後の作家による記述との間で生じる「ホームの感覚」の相同性と差異の検証を中心に研究を進めた。前年度に明らかにした宣教師とルイス・ベックによる太平洋描写との類似性を起点とし、彼らのホームの感覚の差異が同一事象の描写の違いと連動しているという仮説を立て、これまでの資料を再検証した。その際に注目したのが、太平洋の性的な事項に関する表象である。本課題の初年度、18世紀の探検家の記録や初期太平洋物語の共通性を探る際に、性のイメージを西洋的な価値観と太平洋文化との衝突を顕著に表す兆候として用いたものの、ホームの感覚との関わりを確認するまでには至らなかった。しかしながら、ベックが人気を博した理由の一つが、性に関わる事項を露骨に提示した物語のグロテスクさにあり、それが初期の太平洋言説の特徴的な部分の復活を刻印するのであれば、ヴィクトリア朝末期の読者の関心が依然として太平洋の「性」にあったことを示唆する。同時期に太平洋世界を訪れた作家たちは、職業作家という点で読者の期待からは自由になれず、なんらかの形で太平洋の性と対峙しなければならなかったはずである。そのように考えると、作品内での性的な要素の取り扱い方は、宣教師の記録からベアトリス・グリムショウ、モームの小説に至るまでに通底する共通要素となり、彼らのホームの感覚を測る指標となりうる。このような観点から作家たちのホームの感覚の共通性と差異を検証した一方で、再読によって「ホームの感覚」自体についてもさらに詳細な検討が必要なことも明らかになった。ヴィクトリア朝末期の太平洋世界は西洋化がかなり進行し、「ホーム化された場」となっていたため、訪問者が感じるホームの感覚も変容したと考えられる。それゆえ、ホームの感覚の偏差も考慮しつつ、作品群を再配置することが次年度の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に計画していた海外での資料収集はかなわなかったものの、その分、これまでの成果について再検討を行い、より詳細な作品検証をすることができた。また、その過程でキーワードである「ホームの感覚」についての修正の必要性も発見することができ、より質の高い議論ができる見通しがついた。
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今後の研究の推進方策 |
研究の方向性は当初からほとんど変化していないため、申請書通りに計画を進め、包括的なまとめの作業を継続する。今年度も海外での資料収集には困難が予想されるが、前年度に獲得した海外図書館へのオンラインアクセスのノウハウを活用し、効率的な資料収集を行うことで議論を補強する。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料集のための海外渡航を計画していたが、コロナウイルス禍の渡航制限により実現しなかった。次年度はオンラインによる資料収集や成果発表に加え、書籍媒体の資料収集に重点を置くことで予算を執行する。
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