研究課題/領域番号 |
17K02559
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
中村 亨 中央大学, 商学部, 教授 (70328029)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 人種 / モダニズム |
研究実績の概要 |
ウィンダム・ルイスのアメリカ合衆国の文化に対する矛盾し、相反する二つの姿勢を、彼のヘミングウェイについての評論、ヨーロッパのアメリカナイゼーションを主題とするフィクション、そして彼の手紙を関連づけることによって考察した。 ルイスはアメリカ文化、そしてヨーロッパがアメリカ文化の影響を受けることに危惧を感じており、その危惧は彼の人種観と深く結びついていることが、研究の結果分かってきた。 彼は一方でアメリカ文化を、イギリスと共通するアングロ・サクソンの価値観・伝統が極端な形で発展したものとして受けとめ、批判的に捉えている。すなわち、過剰なまでの禁欲と自己抑制を体現する文化であり、高度な機械文明を築き上げながら人間もその機械の一部と化してしまった文化である。 だが他方で彼はアメリカ文化を、アフリカ系アメリカ人を中心とする非白人の影響によって雑種化した文化とも見なしており、ジャズを典型とする原始的な衝動と感情の産物とも考えている。 この相反するアメリカ観が、自動人形のようになりつつ同時に原始的で雑種的とも見なされる、アメリカ化した西欧人たちを描いた短編 "Soldiers of Humor"を生み出したと考えられる。この短編の制作過程を調べてみると、ルイスがアメリカの人種混交を危惧する評論Palefaceを書く以前の初期の原稿には書かれていなかった、雑種的で原始的なイメージを合衆国に移民したヨーロッパ人たちに付与されていることが分かる。 この機械的でかつ原始的・雑種的という矛盾するアメリカ人のイメージを、ルイスはヘミングウェイの文学に投影して、評論 "Ernest Hemingway, The 'Dumb Ox'が書かれたと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果を2017年秋にイギリスのウィンダム・ルイス学会大会において発表したところ、ルイス研究の先駆者であり大家であるPaul Edwards氏が好意的に評価してくれて、また有益な助言をもらった。研究の方向と考察がおおむね妥当なものであるという手ごたえを感じることができたので、現在の研究をさらに推進していけると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
ウィンダム・ルイスの芸術観、そしてアフリカ、オリエントを中心とするいわゆる「プリミティブ・アート」に対する彼の考え方が、彼の盟友とも言える哲学者T.E.ヒュームの影響を深く受けていることが、研究を進めるうちに分かってきた。ヒュームの思想はルイスだけでなくエズラ・パウンドや彼ら二人が中心となった芸術運動ヴォーティシズム全般、そしてパウンドに感化されたヘミングェウイにも影響を与えているように思える。 そこで今後は、ヒュームとルイス、パウンド、ヴォーティシズムの関係を、プリミティブ・アートとの関連において探っていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
絶版により古書購入の必要があると考えていた書籍の一部に関して、本学図書館を介したインターネット上での閲覧・コピーが可能であることが分かった。そのため購入せずにすみ、その分の経費を節約することができた。 節約できた分の経費は、次年度以降の海外資料調査と他の書籍購入に充てたい。
|