シャーウッド・アンダソンとジーン・トゥーマーおよび合衆国南部の黒人文化との関係、ヘミングウェイ文学における黒人表象およびミンストレル・ショーとの関わりについてすでに発表した論文を加筆修正し、さらにウィンダム・ルイス、アンダソン、ハーレム・ルネッサンスの作家たちの三つ巴の相互交渉についての新たな論考、ヘミングウェイの複数の作品の草稿における黒人表象の書き換えと削除についての検討を通して彼の黒人像の創作における逡巡を浮き彫りにした論考を加えて、単著としてまとめ出版するために現在準備中である。 さらに、アンダソンが加わっていた、多文化的理想を掲げる文学的ナショナリズムの運動にトゥーマーとヘミングウェイが参入し、やがてヘミングウェイがその運動から離脱していったプロセスを辿る論考を書き上げた。書き上げた論考は現在、共著として今年度内に出版するため準備を進めている。 さらには日本ヘミングウェイ協会2022年度全国大会でヘミングウェイと雑誌『エスクァイア』の関わりについてのシンポジウムで発表し、「ヘミングウェイ」を名乗る黒人の召使いがヘミングウェイの『武器よさらば』を逃亡奴隷の物語として自作解説する記事、および徴兵される兵士を奴隷と断じて反戦の主張を行っている記事に焦点を当てて、ヘミングウェイ自身の黒人奴隷との重ね合わせ、ミンストレル・ショーを転用した表現戦略について考察した。発表した論考は活字にまとめ、今年度のヘミングウェイ協会の学会誌『ヘミングウェイ研究』に掲載されることになっている。
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