研究課題/領域番号 |
17K02564
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
相原 優子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30409396)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ソール・ベロー / シンシア・オジック / 可傷性 |
研究実績の概要 |
課題である「ユダヤ系アメリカ文学に於ける身体的可傷性の考察」は、今まで研究をつづけてきた「ユダヤ系アメリカ文学に於けるイスラエル表象と平和のレトリック」(基盤研究C、課題番号26370336)の延長線上にある。最初の年度は、まず今までの研究で得られた成果を確認した上で、「身体性」「可傷性」というテーマを新たに与えることによって、どのような方向で研究が新たな段階へと発展し得るかを検討した。その中で、ユダヤ系文学の元となっているイディッシュ文学に登場する典型的かつ古典的な人物の原型である「シュレミール」について考察を進めた。この人物像で最も注目すべき特徴はその「弱さ」である。この「弱さ」のモチーフが、今回のテーマである「可傷性」と深く結びついていること、そしてこのモチーフが、ユダヤ系文学の古典的作品から現代の作品に至るまでずっと受け継がれていることを確認した。また、今回の研究で取り上げることになるソール・ベロー(Saul Bellow)の遺作Ravelsteinの主人公のモデルとされた研究者アラン・ブルーム(Allan Bloom)についての調査を具体的に開始するために彼の著作を重点的に収集した。特にブルームの最後の著作は文学に関するものであり、ソール・ベローもその本の刊行に携わっていることからベローとブルームが相互に影響を与えあっていたことが確認できた。アラン・ブルームは研究者としてアメリカの外交政策にも深く影響を与えたと言われている。特にベローとイスラエル問題を考える上でブルームの影響を確認する必要があると考え、引き続きイスラエル関連、ホロコースト関連の研究書や資料も収集した。もう一人研究対象として挙げているシンシア・オジック(Cynthia Ozick)についても謎の多い彼女の作品を、新たな「身体」「可傷性」というキーワードから分析を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究は、今まで続けてきた研究の延長線上にある。それを更に新たな段階へと発展させていくために今までの研究の成果を十分確認、総括する必要があり、そのために多くの時間と労力を割いてしまったことが最大の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究には重要なキーワードとして「身体」と「可傷性」がある。まずは、今までの研究で得た見解に、このキーワードを更に加えることによって作品の新たな側面に光を当てたいと考えている。現代のユダヤ系アメリカ文学を語る際には、どうしてもイスラエル・パレスチナ問題を無視することは出来ないと考えている。そのためにも、この問題について引き続き学んでいかなくてはならない。特にホロコーストからイスラエル・パレスチナ問題への流れは常に意識していなければならないと考えている。そういう意味に於いて、文学作品と同時に歴史や国際情勢、またはユダヤ文化や「身体」「可傷性」関連の思想などについても研究が必要となる。膨大な量の研究書や思想書を読みながら文学研究を行うことになるため、どうしても具体的な成果を出すためには時間が必要となる。研究書や資料の収集、資料の読み込み、文学作品の分析、そして論文執筆のための時間をバランス良く配分することが必要であり、その点に留意しつつ研究を続けていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今までの研究の総括、大学教員としての仕事や原稿執筆などが生じ、十分研究に時間を割くことが出来なかったことが最大の理由である。また、学務的な日程の関係で出張についても予定を立てることが出来ず、次年度以降へと持ち越すこととなった。
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