研究課題/領域番号 |
17K02564
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研究機関 | 武蔵野美術大学 |
研究代表者 |
相原 優子 武蔵野美術大学, 造形学部, 教授 (30409396)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 現代アメリカ文学 / ユダヤ系アメリカ人作家 |
研究実績の概要 |
研究成果としては2本の論文執筆が挙げられる。ソール・ベローよりも一世代若手のフィリップ・ロスの作品を映画のアダプテーションの視点から論じた論文「ミス・キャストの謎:フィリップ・ロス『ヒューマン・ステイン』」(仮題)とソール・ベローと彼の同世代である主要な女性ユダヤ系作家グレース・ペイリーを比較して論じた論文「『家』を問う女性:ソール・ベロー「黄色い家をのこして」とグレース・ペイリー「長距離ランナー」」(仮題)を執筆した。両論文ともに今回のテーマである身体が大きなモチーフとなっている。ソール・ベローの影響を多大に受けたとされるフィリップ・ロスについて分析するにあたり、ソール・ベローとフィリップ・ロスの手法とテーマに見られる共通点を出発点として、フィリップ・ロス作品の分析を開始した。図らずも、ソール・ベロー作品でも更に考察を進める予定である「身体性」のテーマは、フィリップ・ロスの晩年の作品の主要な関心事であったことが、彼の作品と彼の作品の映画化の比較を通してより明確になった。映画というまさに「身体的」とも言える芸術媒体も併せて論じることで、書籍(原作)だけでは充分捉えきれなかった「身体性」及び「可傷性」のテーマをより深く検討することができた。また、グレース・ペイリーの作品との比較では、今回の「身体的可傷性」のテーマの前段階として検討してきた「イスラエル」の表象のテーマを射程に入れつつ、ペイリーの作品とは全く違う小説手法を展開しながらも、一見まったく共通点が見られないと思われる作家二人が「家」や「土地」を巡る考えについて歴史的視座から眺めていたという共通点があることが明確になった。二人の作家を比べることによって、ソール・ベローの作家としての「ユダヤ性」がより際だったのではないかと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
論文執筆という意味では、順調に研究を形にする作業は進んでいるものの、委員会などの大学業務の多忙さと昨年度は他の作家に関する原稿依頼などをこなしているうちに、ソール・ベロー研究がやや遅れてしまったという懸念はある。これらの一見無関係な仕事も同じユダヤ系作家研究であるため、無関係ではなく、今後のソール・ベロー作品の分析にとっても有益ではあると思うが、もっとベロー研究に時間を使いたいと考えていた。特に彼の主要な作品『サムラー氏の惑星』の分析が未だ充分ではない。ソール・ベローの作品に続いて、研究予定の女性作家のシンシア・オジックの作品の分析に十分時間をあてることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究の本筋を見失わないように、しっかりソール・ベロー作品をまず基本軸として分析していきたいと感じている。また女性作家たちの作品の分析と研究も続けていく予定である。一方、依頼をうけて原稿を執筆する際でも、この研究テーマとは全く無関係であるというわけではないので、自分の研究が十分に反映されるように、依頼された論文の執筆と本研究とをきちんと関連づけたいと考えている。これらのユダヤ系アメリカ人作家の作品を分析しながら、「ユダヤ系アメリカ文学」というジャンルの定義と意義を改めて再検討していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画に多少遅れが出ていることが大きな理由となっている。論文を執筆する際、大きなテーマは決まっているものの、論文の主題を十分絞り切れておらず、資料の収集に遅れが生じている。また、当初予定していた出張についても、家の事情や他の仕事との関係などでなかなか目処が立たず、具体的な計画が立てられない状況となっている。次年度には、研究の主題をしっかりと見据えて絞り込み、資料収集をしっかり行い、少しでも研究を進めたく思っている。また、必要性と妥当性を充分見極めた上で、適宜出張の計画を立てて行きたい考えている。充分に研究に集中できるよう、機材や文房具などを揃えて、しっかり研究の環境を整えたいと考えており、そのためにも使用させて頂きたいと考えている。
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