令和4年度の研究実績は、①「江戸時代に長崎出島で編纂された蘭日辞書『ドゥーフ・ハルマ』(初稿・自筆)の翻刻と、辞書項目(頭文字A、C、E)の語彙調査」と②「長崎方言バッテンを中心とした五島列島における方言調査」である。 ①においては、研究資料の整備のために、C項目の翻刻を行い、学術雑誌に発表した。また、本資料は長崎商館長であるオランダ人が日本人通辞とともに編纂した辞書であるが、日本語訳に使用された語に豊富に長崎方言を含む。それが全てローマ字で表記されていることから、発音が分かるという特質をもつ。令和4年度は、主に、ハ行の発音について分析した。ハ行音は平安時代以降現代までに、徐々に[f]音から[h]音に変化している。現代は「フ」だけが[f]子音となっているが、ドゥーフの頃には「ヒ」「フ」「へ」が[f]音であるであることが推測される。今後さらに調査をして、論文にまとめたい。 ②については、佐世保市宇久町、新上五島町などにおいて、対面調査を行い、あまり知られていなかったバッテンの用法について調査し、研究会で発表した。 研究期間を通じて、室町時代を源流とする長崎方言のうち、特に代表的な文法事象に着目して、通時的研究が進められたと考える。 条件表現のンバ、バッテン、終助詞のバイ、タイの成立と用法については近世の方言史料をと現代語との両面から明らかにできたと考える。また、室町時代の日葡辞書と近世資料、現代方言の語彙を比較することで、方言の広がり方を確認することができた。期間中に『ドゥーフ・ハルマ』の初稿と出会い、長崎方言史料としての価値を見いだすことができ、今後の新たな研究テーマとなった。
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