研究課題/領域番号 |
17K02797
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
辛島 美絵 九州産業大学, 国際文化学部, 教授 (60233996)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本語史 / 文体 / 古文書 / 仮名文書 / 資料 / 表現 / 語彙 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、前年度に整備したテキストについて①文書内容と背景の調査を実施し、②仮名の多寡による文書分類(漢字専用文書、漢字主体文書、仮名半分文書、仮名主体文書)に基づいて用例調査を行い、③新たに一文の述語に着目した分析を試み、品詞による述語文の分類を実施し、④中古・中世の文学資料(広義の物語類)との比較を行った。⑤その結果、 ⑤-1 漢字専用文書では動詞述語文の割合が低いが、物語類では高い。 ⑤-2 仮名文書では漢字専用文書よりも動詞述語文の割合が高い。仮名が多い文書ほど割合が高く、物語類の割合に近づく。 という2点が明らかになった。これを前年度に実施した「によりて」節内の述語の傾向と比較・分析した結果、仮名が多く使用されている仮名文書は、文章表現における具体性・個別性が強いこと、それが鎌倉時代の広い階層にわたる人々の口頭での表現に基づく可能性が高いことが明確になった。 ①の文書の内容と背景の調査については日本史関係の研究成果を収集して実施し、②③の用例調査と分析については収集した原本の写真に依拠し、文章を分析して文を認定し、一文の述語の分類を行った。④については、平成29年度の調査対象文献に「日本霊異記」「将門記」「延慶本平家物語」等を新たに加え、平安・院政鎌倉時代の王朝物語・説話・軍記の各ジャンルの作品について、冒頭の文章を抽出して、古文書と同様の方法で分析し、それを古文書と対比した。⑤の結論については、次年度に雑誌論文として公開予定であり、仮名文書の文体研究の成果の一部は30年度10月刊行の『日本語学大辞典』の「口語体」「書状(日本語史資料)」の項目記述において公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の計画としては、①29年度に整備した古文書テキストについて原本の表記を調査し、②文体をはかるのに適した語句・語法を選定して、仮名文書・漢字専用文書におけるそれぞれの用法を比較検討する、③文書内容と背景の調査について、対象とした文書の内容、ならびに差出人・宛名人の身分・居住地域・性別・教養などについて日本史学による研究成果も利用しつつ調査を行う、④仮名文書は、仮名書き部分の多寡で三種に分類して用例採取を行い、漢字専用文書では仮名文書の用例に相当する内容の表現を採取する、という4項目を予定していた。 実際には①②と④は、計画通りに実施し、仮名文書において一文の述語に着目した分類・分析方法が有効であることを示す材料がそろい、進展があった。③の文書背景の調査については、おおまかな把握はできたが、まだ途上であり、差出人の教養について、新たに中世文学作品の需要・影響の度合いに着目して調査する必要が認識された。 以上を総合的に勘案して、おおむね計画通りに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度も、仮名文書の資料性解明のための新たな分析方法の検討・開発を推進していく。①前年度までに分析した結果を論文として公開し、②前年度までに整備したテキスト(場合によっては対象の仮名文書を追加)を対象とし、③文書内容と背景の調査とともに、あらたな着眼点から④用例調査を行い、分析方法の検討・開発をしつつ、⑤用例の整理分析を行い、仮名文書の表現の特色をつかみ、古文書以外の資料と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度には古文書の原本の調査を実施する計画を立て、東京=福岡往復の旅費を使用する予定だったが、文書所蔵者から東京大学史料編纂所での原本複写許可について回答がなかったため、東京での調査を延期し、申請者の近隣の大学所蔵の写真やweb上で公開されている写真を用いて調査したため、旅費を使用しなかった。 よって次年度使用額が発生した。次年度も古文書所蔵者の許可が得られなかった場合には対象の文書を変えて、別の所蔵者に許可を取り、古文書の原本の出張調査を実施する予定であるので、その際の旅費として使用する計画である。
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