研究課題/領域番号 |
17K02811
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
寺田 寛 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90263805)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トップダウン式構造構築 / ミニマリスト・プログラム / 主語の島 / 拡張条件 / 付表貼付 |
研究実績の概要 |
平成30年度(2018年度)は、トップダウン方式の派生における付表貼付(labeling)という視点から、主語の島の効果を説明する理論の構築を行った。主語の島の研究はすでに平成28年度から取り組んでいる現象である。主語の島の効果とは、他動詞の主語からwh句などの要素の摘出は容認されないが、たとえ他動詞の主語であっても、派生の途中で従属節の主語位置へ繰上げを受けるような場合には、島の効果は緩和されるという現象である。平成29年度には、ボトムアップ式の構造構築をふまえたChomsky (2013, 2015)の付表貼付の枠組みを使って、主語からのwh句の摘出およびその残余句が交互前進(Leapfrog Movement)を受けることで、付表貼付が成功裏に行われるという分析を展開したものであった。 平成30年度におけるトップダウン方式の構造構築を用いた説明の中では、拡張条件(Extension Condition)という原理を援用した。拡張条件は、Chomsky (1995: Chapter 3)で提案された原理であるが、ここではこの条件を「派生のあらゆる段階において計算が標的とする構成素に統語操作を適用することで構造が拡張される方向に派生が進められれば最も効率よく統語計算が行われるはずである」という形で定義した。形式素性や意味素性が意味解釈を受ける位置に繰り下げられるという派生のプロセスとトップダウン式の拡張条件の定義を用いることで、この複雑な主語の島の現象の説明が可能になった。この研究により、トップダウン式の派生による文法理論の実行可能性を高めることにつながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
トップダウン式の構造構築による理論の開発の一部分として、主語の島の現象を拡張条件によって説明することに力を注ぎ、一応の解決策を見出すことができた。しかし、拡張条件だけでは説明できる文法現象が制限される。そのため、拡張条件以外の文法原理を仮定して、幅広い現象を説明する理論を提案し、これを検証しなければならない。それには理論的な帰結の検証に時間がかかる。また、文法現象として名詞および名詞句に関わる現象のデータ収集を進めている。その一環として、Huddleston and Pullum (2002)らによる英文法大全 (The Cambridge Grammar of the English Language)の第5章 "Nouns and Noun Phrases" の翻訳を出版する準備を進めている。この文献の翻訳に多くの時間が必要となっている。このため、主語の島の現象以外の文法現象の情報収集を行っている段階にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
Huddleston and Pullum (2002)らによる英文法大全 (The Cambridge Grammar of the English Language)の第5章 "Nouns and Noun Phrases" の翻訳は夏の終わりまでに終えることができるところまで作業が進んでいる。この中で得られた名詞と名詞句のデータをもとにして、英語における名詞句内部の主要部融合現象、および、名詞句の修飾語がwh語である場合に引き起こされる移動の随伴現象について、トップダウン式の構造構築と拡張条件とそのほかに必要となる文法原理あるいは媒介変数を発見し、説明理論を提案、検証、発表する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出版を見込んで図書費に多めの予算をあてていたが、期待していたよりも少ない図書しか出版されなかった。また、遠方の学会に出張をして資料を収集する予定であったが、参考になる研究発表が少なかったため、学会出張費を残すことになった。それゆえ、翌年度にこれらを支出することとした。
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