この研究の目的は、Noam Chomskyの提唱する極小主義(Minimalist Program)という言語理論において、付票貼付(labeling)がどのように定式されるべきであるかを考察することである。付票貼付演算法(labeling algorithm)が唱えられているが、この研究ではその問題点を明らかにし、トップダウン式接近法による文構造の構築の研究を付票貼付への最適解であると主張する。 平成29年度(2017年度)と平成30年度(2018年度)は、主語の島の効果を説明する理論の構築を行った。平成29年度には、ボトムアップ式の構造構築をふまえた付票貼付演算法による分析を検証した。平成30年度におけるトップダウン方式の構造構築を用いた説明の中では、拡張条件(Extension Condition)という原理を援用することで、付票貼付に代わる説明を論文の中で提案した。また、2017年には付票貼付のもう一つの有力な説であるCecchetto and Donati (2015)のRelabeling分析を日本語の関係節に適用した共同研究も進め、国際学会でポスター発表を行った。 平成31年度・令和元年度(2019年度)には、疑問文にみられる随伴現象を取り上げて、付票貼付による説明を論文の中で検証した。さらに拡張条件がこの現象にも付票貼付による説明よりも有効な説明原理であることを論文の中で論じた。2019年度には、名詞や名詞句の構造についての研究の一環として、The Cambridge Grammar of the English Languageという英文法書の世界的な大著のChapter 5を共訳者と共に和訳し、その責任訳者を務めて出版した。令和2年度(2020年度)には、これまで提案してきた拡張条件分析が関係節にも有効であることを論文の中で論じた。
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