研究課題/領域番号 |
17K03159
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
南 修平 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (30714456)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ史 / 労働史 / ニューヨーク史 / 生活世界 / 港湾都市 |
研究実績の概要 |
2017年度は第2次世界大戦後から1960年代前半におけるニューヨーク港湾地区労働者の動向とそれを取り巻く内外の情勢との関係について検討を行った。具体的にはライヴァル関係にあった二つの船員労組―全米海事労組(NMU)と国際船員労組(SIU)に焦点を絞り、コロンビア大学・ニューヨーク大学・ニューヨーク公立図書館が所蔵している両労組の機関紙や各種発行物を中心に、その詳細を把握することに努めた。9月及び2018年3月下旬から年度をまたぐ4月初旬の二回に渡る史料調査を通じて得た成果は以下の点に集約される。 ①NMUとSIUは組織員の確保をめぐって鋭い緊張関係にあったが、1950年に入る頃より港湾地区全体の秩序掌握を狙う公権力の介入が急速に強まり、その中で港湾地区のリノヴェーションや船員労働の雇用システムの転換も進むという重要な変化に直面していた。 ②雇用システムの変化は、船舶の転籍促進による組合員ではない船員―多くは外国人―の雇用の増大を意味した。 ③1964年に様々な面で対立を抱える両労組に港湾労組などが加わって政府主導によるソ連への小麦輸出に対する反対行動が組まれた。従来これらの労組については個別的に扱われ、相互の関係はほとんど検討されていない。港湾関係労組の統一行動は、いずれの労組もニューヨーク港湾地区全体の変化によってもたらされる日常の揺らぎに強い危機感と不安を抱いていたことを示すものである。 また、史料調査と並行し、本研究が対象とする時代においてニューヨークの組織労働者がいかなる状況に身を置いていたかというより広範かつ全体的な状況について、二回の学会報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に設定した船員に関する調査を集中して進めることができた。その意味においてはおおむね順調に進展していると言うことができる。ただし、検討すべき史料の量は、事前調査によって把握していたよりも大きく上回ることが2017年度の現地調査の過程で判明した。そのため、ニューヨーク市における調査回数を計画よりも増やすことで対処した。しかし、それでもなお船員に関する未点検の重要史料が多く残されている。幸い、こうした一群の史料はニューヨーク市内の複数図書館でアクセスできる見込みが立っているため、まずはその調査を進める。したがって、当初2018年度に計画していたニュージャージー州など市外での調査については再検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は前年度に積み残したニューヨーク市内の複数図書館に存在する二つの船員労組に関する史料調査を引き続き進めていくことが最優先である。そして前年度までに得た史料の分析結果については、5月に予定されている歴史学研究会年次大会で報告する。その後、発表した内容に対して修正及び加筆を行い、より精緻な形にして論文化する。また、並行してさらなる史料分析を進めていき、年度内に次なる成果を論文として形にすることを目標にする。その他、国内において本研究に関連があると思われるアメリカ海運業及び船員に関する史料の所在が判明していることから、それらについての確認も行う。 研究計画で2018年度に組み入れていたニューヨーク港湾地区の一角をなすニュージャージー州港湾諸都市に関する調査については、①船員労組に関する重要な史料の量が想定以上に多い、②計画段階では予定になかった校務によって夏季休暇期間中の調査が困難となったという理由から、2019年度以降に変更する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査の必要に応じて物品費を抑制したため、当初予定した支出額よりも下回ったことでやや余剰が生じた。
次年度はニューヨーク市での史料調査に伴う旅費が使途のほとんどを占める。その他国内での研究・調査にかかる移動費、研究に必要な書籍・資料購入費として使用する予定である。
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