研究課題/領域番号 |
17K03159
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
南 修平 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (30714456)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ史 / 20世紀アメリカ史 / ニューヨーク史 / 労働史 / 生活世界 / 港湾都市 / 海運産業 / 海員組合 |
研究実績の概要 |
2019年度は2回に渡ってニューヨーク港湾地区に関する史資料調査を行った。1回目は前年度末から当該年度4月初頭にかけて実施し、コロンビア大学バトラー図書館でアメリカの二大海員組合が発行する機関紙の収集を継続するとともに、マンハッタンの対岸であるニュージャージー州沿岸地区(ホーボーケン歴史史料館)でも調査を開始した。本研究ではニューヨーク港湾地区に関する先行研究がニュージャージー州沿岸地区との結びつきを欠いてる点を課題として考えており、ニューヨークとニュージャージーの沿岸地区の間には歴史的に水路を介して様々な有機的連関が存在することを追究するものである。その意味で、ホーボーケン歴史史料館で得た史料と同館スタッフからの情報は重要な成果であった。 2回目の調査はその成果をさらに発展させることを目的に、2019年10月半ばに実施した。この時はコロンビア大学で調査を行いつつ、ニュージャージー州での調査により時間を割くようにした。ホーボーケン歴史史料館で新たな史料を入手するとともに、隣接するジャージーシティの公立図書館でも調査を行った。同図書館の調査室は地元コミュニティに関する種々の史資料を保有しており、それらを収集する過程で、ホーボーケンやジャージーシティを中心とする周辺一帯が港湾都市として大いに栄えただけでなく、現在では多くが廃止され衰退した鉄道や陸運業が人とモノの行き来を支える重要な機能を果たし、ローカル・コミュニティにエスニックな紐帯を礎とする秩序が形成されていたことが把握できた。 また、この2回の調査の狭間に、論文「愛国主義を抱きしめて―第2次大戦期ニューヨークにおける余暇と「白人労働者階級」」を執筆し、二つの総力戦を戦う中で港湾地区が国家の要衝と位置付けられ、同地で働く人々の日常が国家と親和性を強めていく状況を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
年度末までは概ね順調であったが、年度末から新年度初頭にかけて計画していた調査がコロナウィルスの拡大によってキャンセルとなったことが遅れの原因である。本来であればこの調査によって、当該年度2回目の調査で得た成果をさらに発展させることを見込んでいた。特に、本研究において重要な調査対象地域と位置付けているニュージャージー州沿岸地区での作業においては同地区のコミュニティの歴史に関する様々な史料を特定できており、さらに有望な展開が見込めていただけに、今回のキャンセルは研究計画に少なくない影響を及ぼした。 ただし、このキャンセルに至るまでは順調に史資料収集とその分析を進められていた。それらは、ニュージャージー州沿岸地区とニューヨーク側の有機的連関を検証していく上で一定の段階まで明らかにする程度の状態にある。それは前年度末から今年度初頭及び10月に行った調査で得た史資料によるところが大きく、そこで得たニュージャージー州関連の史資料をコロンビア大学図書館で収集してきた海員組合の史料と総合しながら分析を進めた結果である。現時点では、二つの大戦や冷戦の激化を通じてニューヨーク港湾地区への国家的関与が強化され組合の影響力低下が進むという政治的傾向と、同時期にニュージャージー州を含む港湾地区コミュニティの変容がパラレルに進んでいることが確認できている。このことは地域や対象を狭い範囲に絞って捉えることを特徴とする先行研究では詳細に取り組まれてこなかった点であり、本研究をさらに進める上で大きな成果と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では現在保有している史資料に依拠した作業に注力する。まず、ニューヨークを拠点とする二大海員労組の第二次大戦期から冷戦の激化にかけての変化を詳細に分析する。これまでこの課題について学会発表や論文で明らかにしてきたことは、二つの大戦を通じて海運政策への国家の関与が強まり、船舶のアメリカ化が推進されたものの、戦後は海運部門で他国との競争が激しくなってコスト削減を迫られ、船籍転換や外国人の雇用が飛躍的に進んだということである。今後は、その変化の要因を経済的な側面以外にも広げて検討すると同時に、それが組合にどのような影響をもたらしたのかをより具体的に見ることが課題となる。 次に、ニュージャージー州沿岸地区を含むニューヨーク港湾地区の総合化した研究を推進する。最初に同州沿岸地区とニューヨークの有機的連関の実態を明らかにし、水運を通じて一体化した地域はどのように機能していたのかについて検討を進める。そのために、ニュージャージー州沿岸地区の中心であるホーボーケンとジャージーシティに注目し、海員組合が連邦政府や海運産業の攻勢を受けて組織が弱体化し始めた時期と重ねながら、二つの都市におけるローカル・コミュニティの在り方とその変容を分析する。 キャンセルに追い込まれた史資料調査の再開については現時点で目途が立たないが、年度内に少なくとも1回は調査を行いたい。当初の予想を大きく上回る量であったコロンビア大学図書館の海員組合史料については、収集すべきものが残りわずかとなっているため、まずはこれを終了させたい。そして調査の比重をよりニュージャージー州側へシフトさせ、当地の公立図書館を中心にローカル・コミュニティに関する史料をさらに集めることを企図している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた要因は、当該年度末から新年度初頭にかけて計画していたニューヨーク及びニュージャージー州への史資料調査がコロナウイルス拡大でキャンセルとなったことである。これらは、もともと前述の調査に伴う旅費として使うことを予定していたが、見送らざるを得なくなった。次年度においては、未だ状況が読めない中ではあるものの、調査を再開し、少なくとも1回は実施する意向である。また、調査の期間と実施回数に関連するいくつかの物品購入も計画している。
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