本研究は、1960年代後半以降、言論・表現の自由を核とした基本的人権を擁護し、当局の迫害に抗したソ連異論派の言論活動と、それを支援した西側知識人・市民の越境的実践及び両者による共同プロジェクトの実態を描き出すグローバル・ヒストリーの試みである。特に注目するのは5人の人物とその活動、そして彼らが作り上げた人的ネットワークである。ソ連異論派の代表的人物で、後に米国に移住してソ連の人権擁護活動を続けたPavel Litvinov、1967年-68年にモスクワに滞在してリトヴィノフを含む異論派との交友関係を築き、帰国後に異論派文献を出版する「ゲルツェン財団」を設立したライデン大学教員Karel van het Reve、1930年代から知られた英国の詩人で、リトヴィノフの要請に応えて国際支援委員会「作家学者インターナショナル(WSI)」を立ち上げたStephen Spender、LSI教員で、著名なソ連研究者として様々な異論派支援活動に深くコミットしたPeter Reddaway、父親の事業を受け継いで衣服チェーン店の社長を務めつつ、ロシアやソ連に関心を抱いてロシア語を学び、ニューヨークで異論派関係文献を刊行するフロニカ出版をはじめとした支援事業を展開した米国人Edward Klineである。 2023年度はこれまでの作業の遅れを取り戻すべく、長く見送ってきた海外資料調査を行った。ニューヨークのコロンビア大学が所蔵するエドワード・クライン文書を閲読・複写でき、クラインが設立したフロニカ出版の事業の実態を詳細に把握することができた。帰国後は、今回のそしてこれまでの収集資料に改めて目を通し、執筆作業を進めた。その結果、当初予定していた本の原稿のドラフトを書き上げるに至った。序章と終章を除き、本論6章から構成される原稿である。出版に向けた条件が整った。
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