まず、退出権そのものの調査としては、ドイツにおける支配契約締結時の代償請求権制度や株式法上・有価証券買収法上・組織変更法上のそれぞれの少数株主締出しに関する規律、および有価証券買収法上のセルアウト制度の検討を行った。また、わが国における企業結合の運営の局面におけるガバナンスのあり方についての論考を、経済産業省より出された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」を踏まえたアップデートしたうえで書籍において公表した。さらに、前年度の研究の結果、退出権による株主保護の評価については、他の株主保護制度(組織行為の差止めや無効の訴えの提起等)をも踏まえた総合的な評価が必要であることが判明したことから、とりわけ会社の組織行為の無効の訴えを中心に検討し、会社法828条を詳細に検討した逐条解説書に寄稿をした。また、株主の権利行使のためのプラットフォームとして重要な役割を占める株主総会のあり方について、COVID-19を契機として物理的会合を必須とすることから変化すべきことを提言する論考をまとめた。 本研究課題を通じて、株主の退出権はそれのみでは少数株主保護の制度として完全ではなく、他の株主保護制度(組織行為の差止めや無効の訴えの提起等)との間の役割分担を考えるべき時期に来ているにもかかわらず、当該他の株主保護制度の検討はまだまだ不十分であるとの認識に至った。今後は、本研究の成果を踏まえて、他の株主保護制度を含めた少数株主保護の包括的な研究を推進していく予定である。
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