本年度は,カナダにおける積極的安楽死(MAID)の実施状況およびMAID法の改正動向をおもな対象とし,文献調査を行った。その結果,以下の知見を得た。 カナダでは,2016年に連邦刑法典が改正され,積極的安楽死が合法化されたが,その際,MAIDの要請について,1)成熟した未成年者による要請,2)事前の要請,および3)精神疾患が唯一の基礎疾患である人の要請については,別途検討を加えるものとされていた。これらの点はカナダアカデミー評議会(CCA)に諮問をされ,CCAは2018年末に答申を公表した。他方で,2016年法について,その合憲性を争う訴訟が複数の州で提起されていた。とくにケベック州で提訴されたTruchon事件で州裁判所がMAID法における「自然死が合理的に予見される」という要件およびケベック州終末期ケア法における「終末期である」という要件をいずれも違憲と判断したことが直接の契機となり,MAID法が改正されることとなった。 2021年3月に改正法が成立し,MAIDの適合基準等に変更が加えられた。改正MAID法では,「自然死が合理的に予見される」という要件が廃止され,自然死が予見されるか否かに関わらず,重篤で治療不能な病状を有する場合には,MAIDの対象となりうることとなった。また,「自然死が合理的に予見される」か否かによって異なる手続が設けられることとなり,「自然死が合理的に予見される」場合には,10日間の考慮期間は不要とされた。一方で,合理的に予見されない場合には,原則90日をかけ適合基準を満たしているかの慎重な見極めが求められることとなった。法制定時に検討課題とされた上記1)から3)のうち,3)については2023年3月までに政府の検討が行われることとなった。また,1)および2)については,法制定後5年目の2021年に行われる議会による法の見直しにで検討が予定されている。
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