本研究の目的は、公益事業の組織とガバナンスの関係について実証的に分析することである。具体的な研究の柱は大きく3つから成っている。まず第一は、公益事業の効率性に寄与するガバナンス要因を探ることである。そして第二は、公益事業の組織規模をガバナンスの視点から分析することである。最後の第三は、公益事業の組織内部のガバナンスを階層性によるコントロールの視点から分析することである。最終年度である令和2年度は、主として、本研究の第三の目的に対応した研究を実施した。 令和2年度の主な成果としては、次のようなものが挙げられる。まず、鉄道会社がなぜ垂直統合における異なる部門の調整を促進するのかについて、日本の鉄道会社の事例分析の結果は、非公式なコミュニケーションが全体の調整に重要であり、非公式なコミュニケーションを強化するメカニズムは主にタスクグループや個人のレベルで観察されることがわかった。一方、フォーマルなコミュニケーションを強化するメカニズムは、主に組織レベルで観察されるということがわかった。また、日本の大手私鉄会社のデータを用いて費用関数を推定した分析では、経営者の所有権と多角化が総費用を削減する一方で、大株主の所有権、持ち株会社の構造、大規模スタッフの機能が総費用を増加させることがわかった。さらに、組織構造が鉄道需要に対する影響に関しては、OECD加盟国データの分析では、多くの規制やガバナンス要因は有意なものとはなっていないという結果であった。しかしながら、旅客鉄道においては上下分離の促進は旅客鉄道分担率を増加させるということがわかった。一方、貨物鉄道においては、公的所有は貨物鉄道分担率を増加させるという結果が得られた。これらの成果について、交通経済学や規制関係の国際学術カンファレンスでの発表や国際学術誌への投稿を行なった。
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