研究課題/領域番号 |
17K03959
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
公文 溥 法政大学, その他部局等, 名誉教授 (50061239)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 技能移転 / 基本技能 / 応用技能 / GPC / トヨタ自動車 |
研究実績の概要 |
今年度の調査研究のハイライトは、ポーランドのトヨタ自動車の工場と当該工場に部品を供給する日系部品メーカーの訪問である。7月25日から8月5日までの期間、ポーランドとハンガリーを訪問した。トヨタのポーランド工場はエンジンとトランスミッションを生産し欧州に立地する乗用車工場に供給する。技能移転の方法は、洗練されていた。本社から直接エンジニアを派遣するのではなく、間接的であった。 すなわち、英国に立地するGPC (Global Production Centre) において訓練を受け資格を取得した労働者がポーランドの工場の技能訓練所で、現場労働者に教えるのである。そして、部品メーカーは、小ロットで数多くの部品を生産したのちJIT(Just-in-Time)で供給していた。筆者は、2003年にこれらの工場を訪問したが、技能と生産システムの移転はこの間見事に向上したことを確認できた。 そして、複数の日系部品メーカーでも技能移転の方法がより洗練されたことを確認した。すなわち、工場の中に技能訓練所を設けていること、技能を基本技能と応用技能に区分し移転を容易にする工夫を行っていた。ボールベアリングの工場では、日本から派遣された労働者が工場内の技能訓練所で教えること、ワイヤーハーネスの工場では技能を基本技能と応用技能に分類し、基本技能を労働者に教えたのち現場に配属する、その後OJTを通して応用技能を習得する、という方法を採用していた。 このように、日本の製造企業が中東欧において、高品質の製品を効率よく製造するべく現場労働者への技能移転の方法を改善し向上させている実際を確認できたのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本調査研究は、トヨタ自動車を対象として、技能の国際移転の実際を明らかにすることである。日本の製造企業は、現場労働者による改善活動の実施を特徴とする。それが、高品質の製品を市場に供給する要件だからである。しかし現場労働者による改善活動を行う技能の国際移転は簡単ではない。大量生産方式に慣れた現地の工場には、そのような労働慣習がないからである。 トヨタ自動車は、現場労働者の技能を基本技能と応用技能に区分し、基本技能をまず教えたのち、現場のOJT(on-the-job-training)と工場内の訓練所における応用技能の訓練を通して技能の移転を図っている。そのため海外工場(タイ、イギリス、アメリカ)に隣接して三つのGPC(Global Production Centre)を設置し、そこで現地人労働者を教育訓練する資格認定者を育成し、その資格取得者が工場において技能訓練を実施する方法を2000年代の初頭に採用した。 本調査研究は、そのため現地を訪問し技能移転の実際を明らかにすることを課題とする。今年度は、中東欧の工場とさらに関連する部品メーカーをも訪問して、技能移転の実際を確認することができた。それゆえ、おおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、やはりトヨタ自動車の海外工場を訪問して、技能移転の実際を確認することである。 そのため次年度は、二つの調査旅行を予定している。第一は、アメリカを訪問しそこの工場を調査することである。トヨタ自動車は北米に8つの乗用車・トラック・エンジンの製造工場を持っている。そしてケンタッキー工場の中にGPC(Global Production Centre)を設置している。そこで、ケンタッキーの工場を中心として可能な限り複数の工場を訪問して技能移転の実際を確認することである。 筆者は、北米のトヨタの工場には1988年以来複数回訪問しているが、GPCができて以来訪問する機会がなかった。それゆえ、GPC設立後の北米における技能移転の実際を確認することは、定点観測の方法で技能移転の調査を行うことになる。 第二は、中東欧のなかで今年度訪問できなかったチェコとスロバキアを訪問することである。チェコにあるプジョー・シトロエンとの合弁による自動車工場と関連する部品メーカーを調査する。チェコの工場には、同工場が操業を開始した2006年に最初の訪問をした。技能移転の視点から再度訪問する予定である。 第三は、技能の国際移転に関連する研究文献の調査研究を継続的に行うことである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2017年度の経費支出は、(1)ポーランドとスロバキアへの訪問による調査研究の実施、(2)関連する研究文献の収集、(3)共同研究者として中京大学経営学部櫻井雅充准教授を東京に招聘したこと、以上の三つである。このうち、櫻井准教授の招聘はあらたに発生した経費であるので、前倒し請求を行った。 以上の三つの経費のうち、既存研究の文献収集に予想以上の経費が必要であった。米国における高業績の労働システムや人的資源管理に関する研究は、日本の製造工場における現場労働者の技能形成を一つのモデルとしている。それゆえ、多くの経費を要した。都合、2,926円の次年度使用額が発生した。 新たな年度の使用計画は、基本的に次の三つである。第一は、アメリカに立地するトヨタ自動車の工場調査であり調査時期は今年の6月を予定している。第二は、チェコとスロバキアにあるトヨタ自動車および関連する部品メーカーの調査であり8月を予定している。第三は、関連する研究文献の収集である。
|