日本の長期存続企業(老舗)を調査対象として、海外進出といった外に向けた国際化だけでなく、国内で海外からの顧客に向けて国際化をはかる内なる国際化も含めて、国際化戦略の動向に関して、事例研究を実施した。海外の長期存続企業の事例に関しては、オーストラリアの少数の事例を参考にした。 事例研究からは、国際化では、老舗が扱う商品・サービスが比較的日本的なものであることから、国内市場では、それを求めてくる海外顧客に対応するために、文化的な背景などをも含めた市場コミュニケーションがそれほど要求されないという利点があるものの、観光客という点での市場アクセスの限界を克服することが不可欠となる。とりわけ、観光地でない地域では、個別の企業を越えて、地域としての顧客誘導が大きなポイントとなる。一方、海外市場への進出では、日本的文化背景をどのように伝えて商品・サービスの魅力を理解させるかが大きな課題になる。その際、マス市場は対象とはなりえず、適切なニッチ市場をどのように発見するかがポイントとなる。 前者では、老舗が集積する地域の魅力を発信し、商品・サービスの歴史的に培われてきた技術・知識の意味を体験型の経験を通して伝達し、口コミで市場を拡大する戦略が採用されている。後者では、多くは単独での戦略行動を試み、百貨店などの流通チャネルの活用などの外部資源の活用が典型的な戦略である。しかし、類似の商品・サービスを展開する海外企業との連携、欧州などの老舗が多く存在する地域では、そうした老舗との連携を活用する事例など、独自戦略をとる企業も現れている。 いずれの事例でも、国内で蓄積した経営資源の活用を意識し、国内市場で展開してきた変革マネジメントを活用して、短期的な戦略ではなく、長期的、漸進的な市場拡大を目指す戦略であることが、老舗の国際化戦略の特徴である。
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