研究課題/領域番号 |
17K04100
|
研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
西原 和久 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (90143205)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 沖縄独立 / 琉球独立 / 琉球社会憲法 / 琉球共和社会憲法案 / 東アジア共同体 / 川満信一 / 反復帰論 / トランスナショナリズム |
研究実績の概要 |
本研究のテーマ上の2本柱は、沖縄独立研究と琉球社会憲法の検討で、それらを移民も含む沖縄県系人にみるトランスナショナリズムを通して検討するものであった。 これまでに沖縄独立研究に関しては、この独立を主張する松島泰勝氏や新川明氏など複数の関係者にインタビューを行った。そして後者の正式名、「琉球共和社会憲法」案に関しては、2019年(令和元年)に1981年時点での提唱者、川満信一氏および仲宗根勇氏にインタビューを行い、特にその中心となる川満氏に対しては2019年9月に長時間にわたりインタビューを行った。 なお、後述の「現在までの進捗状況」および「今後の研究の推進方策」でも触れるが、こうした「独立案」と「憲法案」に関して研究を進めてくる中で、「東アジア共同体」に関する議論が活性化してきている現状にも対応すべく、研究の一部をこの議論へシフトさせることにした。東アジア共同体に関する研究所や研究会が活発に活動しており、私自身もそれらの会合での報告(例:2019年の琉球大学・吉林大学などでの報告)や研究会誌への寄稿(『東アジア共同体研究』第3号)も行った(論文名は「東アジア共同体論への社会学的課題と実践論的課題――砂川そして沖縄から学ぶ脱国家的志向」。この論考は2020年の拙著『現代国際社会学のフロンティア――アジア太平洋の越境者をめぐるトランスナショナリズム』にも収録した)。 この最後の点との関係で、2020年3月末には、東アジア共同体研究会による日中韓を核とする会合が開かれる予定であったが、新型コロナ問題で会合が延期となり、現時点で今後の開催が2021年以降になる予定である。それゆえ、この方面の研究の最後の仕上げには残念な結果となるが、もちろんこれまでの研究実績を踏まえて研究のまとめをおこなうつもりである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」でも触れたように、本研究を遂行中に東アジア共同体研究が「東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会」などを核にして活性化し、2019年8月には第20回記念シンポジウム(3年で20回というハイペースな開催の記念大会)が琉球大学で開催された。私は、そのシンポジウムの基調報告者として、これまでの2019年設立の東アジア社会学会での沖縄問題等のオーガナイザーおよび報告者としての知見を踏まえ、かつ中国や韓国での学術講演をも踏まえて、この東アジア共同体論の社会学的かつ実践論的な課題――特に具体的な共同体構築の計画策定問題――を提唱するなどして、この方面での研究にいま力を注いでいる。 これは、事実としては、本科研費の2大テーマの「沖縄独立研究」と「琉球社会憲法」の発展形であって、実際に、琉球独立論提案者の松島泰勝氏も上記研究会の主要メンバーであり、また琉球共和社会憲法案の川満信一氏も最近の著書で東アジア共同体論的な議論に積極的に関与しているので、この問題を避けて通ることはできない。それゆえ、本科研費研究の申請当初には必ずしも重点的な課題としては明示化していなかったこの議論が、本研究の2年目あたりから必要不可欠な部分を構成するようになったのである。そこで、当初の計画の一つの柱であったハワイにおける沖縄県系人の社会意識調査研究も、この東アジア共同体論関係に限定することになった。 なお、進捗状況として、研究完成状態との関係では現時点でほぼ8割を達成している。本研究期間中のこれまでに、沖縄関連の単著が2冊(『トランスナショナリズム論序説』『現代国際社会学のフロンティア』)、共著1冊(『グローカル研究の理論と実践』)、英文編著が1冊、論文が10本あまり(国立ソウル大の英文雑誌Journal of Asian Sociologyへの英文論文含む)を成果として公刊した。
|
今後の研究の推進方策 |
すでに本科研費研究に関して当初に予定とした3年間は経過しているが、本研究にとって重要な以下4つの点――この点に関しては科研費の「期間延長願い」で述べている――、すなわち、①重要なアジアの研究者が集まる沖縄での会合、②それへの参加者を含む人びとへの必要なインタビュー、そして、③それら①②を踏まえた研究論文執筆、最後に、これまでの約10本の論文を中心にまとまる報告書の作成、が新型コロナ問題の影響も加わって、①と②が実施できず、それに伴い③と④が完成せずに、2020年4月以降の課題となった次第である。 そこで、①のアジアの研究者が一堂に会する大会は本年度開催が危ぶまれるので、その会合を積極的に推進してきた沖縄在住の研究者(たとえば国際政治学・平和学研究の木村朗氏)たちへのインタビューに切り替え(ただし実施は本年度の後期となる予定)、かつコロナ問題下での国内外の移動の困難さに配慮して、東京琉球館の主催者(島袋マカト陽子氏)やそこへの関与者(講演者、後援者、および参加者)を中心とする聞き取り調査を新たに研究計画に加え(本年度の夏以降の実施)、そして上記の③論文執筆および④報告書作成(これら③④は年度内)を推進する予定である。 なお、ハワイへの渡航も現時点では難しい点も考慮して、沖縄独立論や琉球社会憲法の歴史的な背景をなす1950-60年代を中心とする「島ぐるみ闘争」や「日本への復帰論と反復帰論」の文献資料的なまとめを2020年度の前半に推進する予定である。これらに関する基本文献や基本資料の多く(たとえば『日本復帰と反復帰』や『沖縄闘争の時代』など)はすでに手元にあるが、一部の原資料はさらに入手が必要だと思われる。この点に関しては沖縄の公文書館・県立図書館、さらに西原町立図書館などの活用を本年度秋に計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業期間延長承認申請書において述べているように、①2019年度の3月末の沖縄における東アジア共同体関係の国際研究集会への参加、②およびそこでの関係者・参加者へのインタビュー調査が、新型コロナ問題等のためにできなくなり、それに伴い③上記の①②に関する論文、および④前記の③を含む論考集成に基づく報告書が年度内の作成不可能となったため。そこで、次年度は、特に後半に、沖縄在住の①の主催者・集会関係者へのインタビュー調査に切り替え(沖縄渡航)、かつ東京琉球館での関係者調査を加えて、上記の③および④を完成させることにした。なお、この年度の前半は、研究テーマの背景となる歴史社会的な状況の再把握を、既存の文献および新たな資料収集にもとづいて行うことを計画している。なお、最終報告書の印刷費も必要となる。
|