研究課題/領域番号 |
17K04100
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
西原 和久 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (90143205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 沖縄独立 / 琉球独立 / 琉球共和社会憲法 / 川満信一 / 東アジア共同体 / 沖縄と差別 / マイノリティ問題 |
研究実績の概要 |
本研究は、沖縄独立研究と琉球社会憲法案に関するトランスナショナルなアプローチであったが、残念ながら、2020年度は新型コロナウィルスのパンデミックによって、海外渡航を含む当初予定していた十分な研究ができなかった。その代わりに、理論研究を中心にこれまでの本科研費研究の実績を踏まえたいくつかの論稿を著書や論文のかたちで世に問い、研究実績として示すことができると考えている。それらは、2020年内に刊行された2つの拙稿、すなわち「相互行為論と社会学的国家論の交点とその先――琉球/沖縄からの社会学理論的展開へ」中村文哉・鈴木健之編『行為論からみる社会学――危機の時代への問いかけ』(晃洋書房)および「沖縄の社会思想と東アジア共同体論――川満信一と琉球共和社会憲法の生成」東アジア共同体研究所 琉球・沖縄センター編『沖縄を平和の要石に――地域連合が国境を拓く』(芙蓉書房出版)所収、である。このように、科研費の研究テーマ(東アジア共同体研究へのシフトを含む)に沿った研究を行ってきた。そしてそれらはさらに、年度の最後に(したがって2021年に)公刊された自らの単著および編著にも大きく関係している。すなわち、そうした研究は、単著『グローカル化する社会と意識のイノベーション――国際社会学と歴史社会学の思想的交差』(東信堂)においては、その第6章「戦後日本の社会思想――沖縄から問い直す20世紀の現代思想」を中心とする論述に、さらに編著(杉本学との共編)『マイノリティ問題から考える社会学・入門――差別をこえるために』(有斐閣)においては、その第14章で「差別をこえていく――沖縄からの視点」を中心とする論述に集約されて、研究実績として取り上げることができるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上(5)で示したように、論文2本と著書2冊でこれまでの科研費テーマに沿う研究実績を公表してきたことで、研究は一定の進捗を見た。だが目標としていた①ハワイ沖縄県系人のトランスナショナリズムに関しては、十分にその内容を掬い切れていない。また、すでに過去の実勢状況報告でも示したが、ハワイのコスモポリタニズムに関しても、コロナ禍で現地調査ができずに進捗していない。そのために②本科研費の最終年度(3年目末)に刊行すべき調査報告書が未完となっている。つまり、②に関しては、①の成果も取り入れることが残された課題となる。しかし本科研費研究を進めていく中で、ハワイ調査に行けず、しかも沖縄調査も自重した中で、③新たにハワイも含めた基地問題というテーマが浮上してきた。というのも、東アジア共同体論は東アジアでの「不戦共同体」形成とも重なっており、その意味で米軍の軍事基地問題にも着目せざるをなくなってきたからだ。2019年5月には、韓国の済州フォーラムで、Okinawa, Military bases, and the East Asian Community: On social solidarity from the viewpoint of transnational sociology, Jeju University Session in South Koreaといった講演などを私はしているが、この軍事基地の問題は、実は本土にある米軍の横田や岩国の基地などとも深く関係している。さらに、この問題を考えていくと、1950年代に注目された砂川闘争(旧米軍立川基地拡張反対運動)が、沖縄の反基地運動と一定の共振関係にあるとも捉えられ、それが今日の横田や普天間の基地などの問題との連関もあるということが見えてきた。こうした課題の連関が可視化されてきたことは、本研究の進捗を示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
そこで、本科研費研究においては、上記の「7.現在までの進捗状況」で示したように、未だ残されている課題(上記の①コスモポリタニズムと②報告書)および新たに浮上してきた課題意識(上記の③各地の基地問題)を意識して、今後の研究を推進していく所存である。具体的には、本年度はぜひともハワイ大学に赴いて、特にハワイ大学の沖縄研究所(COS)の所長(コスモポリタニズムに関わっている伊波普猷の研究者でもある)との交流を核に、①の研究を推し進め、それを基に、②の報告書を作成し(あるいは①の現地調査が不可能でも、オンライン等でのヒアリングの可能性を追求して報告書を完成させ)、さらにその際に、③の「各地の基地問題」という新たな課題意識も十分に顧慮したいと考えている。なお、私自身は、これまでの研究の成果を認められて(と考えているが)、本年度から新たな科研費を取得できた。そのテーマは「反基地意識の形成と展望―東アジアの平和と共生をめざす沖縄と東京の女性たちの生活史」である。女性の視線を強く意識した点はここでは触れないが、少なくとも、沖縄や日本における反基地意識や反基地運動を通して、日本社会の過去・現在・未来を社会学的に論じる新たな科研費調査である。コロナ禍で2つの調査が重ならざるをえなかったが、むしろそれを好機として捉えて、本科研費研究に③の視点をまじえて重層的に研究を進めていきたいと考えている。そのために、現在、研究のフィールドとしてはかつての砂川闘争を踏まえた市民平和活動としての「砂川平和ひろば」における参与観察も実行しているので、その成果も可能な限り反映させ、同時に次の研究につなげていきたいと計画している。それが「今後の研究の推進方策」である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で最後のハワイにおける調査研究でできず、したがって最終の論文作成ができずに、科研費報告書の発行が次年度使用となったため。
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