本研究は、開発途上国農村地域の住民運動に注目し、それが持続可能な社会発展に果たす可能性と課題を、現地調査をふまえた事例分析をつうじて明らかにすることを目的としている。これまでの成果は以下の点に要約できる。 (1)途上国社会運動に関する分析枠組みの設定(期間全体をつうじた成果): 開発途上国の社会運動研究を事例研究にとどめず、国際開発に関して意義ある成果とするためには、重富真一(2005、2015)が示すような、運動の生成・展開と帰結・影響についての分析枠組みが必要である。前者では、運動が用いる組織、制度、資源に社会構造がどう反映されているかの解明、後者では、意図した結果と意図せざる影響それぞれの発生にかかわる下位メカニズムごとの論証が中心をなす。これらを踏まえて政府と運動と対抗的相補関係の態様を示すことで、各地の社会的文脈における運動の位置・役割と限界の明示が可能になるだろう。 (2)順応アプローチとの関係で途上国住民運動を捉える意義と課題の導出(最終年度の成果): 近年、順応アプローチへの政策関心と取り組みは、資源管理から開発援助、災害復興、平和構築などの領域へと広がっている。これら領域での政府対応が相対的に弱い途上国農村では、開発、資源利用や災害、暴力が密接に関係しあうため、地域住民の日常的・集合的な取組みが順応的アプローチの特性を伴って展開し、その中で規範やルール等が形成・再編されてきた。従って農村住民運動は、こうした順応的プロセスの側面に注目することで理解を深めることができる。そしてこうした自生的な順応的資源管理をめぐる住民運動の事例を(1)に即して検討することで、同アプローチの政策的推進において求められている、取組みの始め方・継続上の鍵を具体的に示すことが必要、かつ可能である。 以上2点に即し、実施済み現地調査の結果を再検討し、成果にまとめる作業を進行中である。
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