本研究は,(1)フォロワーから「倫理的」と判断されるリーダーの特性や行動を解明すると共に,それらの特性や行動が 倫理的リーダーシップ尺度(ELS)得点を介してフォロワーの倫理性及び生産性に及ぼす影響を明らかにすること,(2)リーダーの倫理性(意思決定及び行動)を促進・抑制する要因を同定し,それらの要因がどのようなメカニズムでリーダー自身の行動を倫理的または破壊的にするのかを明らかにすること,を目的としている。 目的1については,自らが道徳的でありたいと考えており(すなわちモラル・アイデンティティが高く),集団を大事にする一方で権威の尊重が低く,相対主義的な倫理観を持ち,部下が困らないように役割やビジョンを明確化すると共に権限を共有して部下の成長や心情に配慮するリーダーが,フォロワーから倫理的リーダーシップを発揮していると評価されることが示された。また,欧米における先行研究で示されている通り,日本においても倫理的リーダーシップは職場の逸脱行為や違反を抑制する効果を示すと共に,組織市民行動,モチベーション,及び組織コミットメントを高めるというポジティブな副次的効果をもたらすことが示唆された。 目的2については,令和3年度に管理職を対象として実施した調査研究の成果により,リーダー自身の個人特性としてのモラル・アイデンティティの高さ,及び組織の不正防止の取組が,実際に倫理的意思決定を促進することが示唆された。 本研究では,倫理的リーダーシップが不正や逸脱行動の防止に有効であることを実証すると共に,日本における倫理的リーダーシップの構成要素を明らかにした点で意義がある。
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