研究課題/領域番号 |
17K04379
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
三島 浩路 中部大学, 現代教育学部, 教授 (90454371)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 将来展望 / いじめ / 排斥 / 抑鬱 |
研究実績の概要 |
中学生当時のいじめ被害に関する調査結果と、新たに開発した高校生用将来展望尺度を利用して高校入学後に実施した調査結果とを利用した分析を行い、いじめ被害が将来展望を低下させる可能性について検証した。具体的には、高校生約500人を対象にして中学生当時に経験したいじめ被害を高校入学直前に測定し、高校に入学して半年が経過した同年11月に将来展望を測定した。2回の調査結果をもとにして、中学生当時に受けたいじめ被害が、高校に入学して半年以上経過した時点での将来展望に影響を与える可能性があるのかどうかを検証した結果、将来展望を構成する3因子のうち、向社会的努力志向因子と肯定的・積極的将来像因子の尺度得点に、中学生当時に受けたいじめ被害程度による有意なちがいがみられた。 しかし、中学生当時のいじめ被害が、抑うつ傾向を強めた結果、高校入学後の将来展望を低下させた可能性も否定できない。そこで、抑うつ傾向の影響についても検証するために、高校生約230人を対象に調査を行った。具体的には、中学生当時に経験したいじめ被害を高校入学直前に測定し、高校に入学して高校生活に慣れた6月に、抑うつ傾向を測定し、さらに同年11月に将来展望を測定した。こうした3回の測定結果をもとにして、中学生当時に受けたいじめ被害が、高校に入学して半年以上経過した時点での将来展望に影響を与える過程で、6月に測定した抑うつ傾向がどの程度影響を及ぼす可能性があるのかを、共分散構造分析により検討した。その結果、中学生当時のいじめ被害が抑うつ傾向を強め、抑うつ傾向が将来展望を低下させる過程と、中学生当時のいじめ被害が将来展望の低下に直接影響を与える過程との二つの過程があることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抑うつ傾向の高まりを媒介する過程とは別に、中学生当時のいじめ被害が高校生の将来展望に直接影響を及ぼす可能性があることを示唆する結果が得られ、本研究の基本仮説はおおむね支持された。基本仮説の妥当性をさらに詳細に検証するために、調査時期を複数回に分割して資料を収集し、この資料を利用して、因果関係を検証するという目的により適したモデルを作成し共分散構造分析による検証を試みる。また、本研究で開発した将来展望尺度により測定した高校生の将来展望が、学校生活に対する高校生の適応に影響を与える可能性についても検証し、将来展望を構成する向社会的努力志向や肯定的・積極的将来像が、学校適応のどのような側面に影響するのかを検証し、いじめ被害により将来展望を低下させた高校生に対する支援や指導に利用可能な知見を得ることも合わせて試みる。 これらの研究活動を実施するために必要な資料は、前年度までに収集を完了することができた。令和2年度中には、資料の分析を完了し、日本教育心理学会等で分析結果の報告も可能であることから、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究成果を学校現場の教育活動に反映させるためには、いじめ被害や将来展望の低下が、学校適応のどのような側面に影響を及ぼすのかを明らかにする必要がある。そこで、友人関係をはじめとした対人関係にかかわる側面と、学習活動にかかわる側面に、高校生の学校適応を大別し、中学生当時に受けたいじめ被害の程度や、向社会的努力志向などの将来展望を構成する要因が、学校適応のどちらの側面により強く関連するのかを検証する。 本研究にかかわる基本仮説から推察すれば、いじめ等の排斥による被害が、将来展望をはじめとした高次の認知機能に影響を与えることから、対人関係にかかわる側面以上に、学習活動にかかわる側面に、将来展望の低下がより強い負の影響を及ぼすことが推察できる。こうした点を中心にして、これまでに収集した資料を分析し、対人関係や学習活動に関連した高校生の学校適応と、中学生当時のいじめ被害の程度や高校入学後の将来展望との関連性についての検証を試みる。 また、いじめ等による排斥が将来展望に及ぼす影響について、因果関係をより明確にすることができる分析手法を導入し、抑うつなど情緒的な要因を介して、排斥が高校生の将来展望に負の影響を与える過程とは独立した、将来展望に対する排斥の直接的な影響を明らかにして論文にまとめ投稿する。 さらに、本研究の成果を教育場面に活用する試みとして、いじめ被害等により低下した生徒の将来展望を強化するための個別的な支援の方法や、学級集団等で実施する学習活動の方法などを、紀要論文にまとめるなどして提案する。こうした提案を行うために、学校心理学をはじめとした心理学系の文献だけでなく、キャリア教育や授業実践等に関する文献も広く収集・調査して、本研究の成果を教育現場に還元する教育実践の具体的な手法などを提案したい。
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