「いじめ」による排斥が将来展望をはじめとした高次の認知機能にネガティブな影響を与え、将来展望の低下が学校生活に対する適応を妨げる可能性について検証することが、本研究の主要な課題である。この課題を達成するためには、生徒の将来展望を測定する尺度を作成する必要があることから、高校生を対象にした調査を行うなどして、生徒の将来展望を測定するための尺度開発を行った。高校生用の将来展望尺度については、これまでも試行的に作成した尺度と「いじめ」被害等との関連について学会報告を行ってきた。 しかし、尺度構成や学校適応と将来展望との関連について、先行研究をもとにした詳細な検討が充分に行われていなかったことから、本年度は文献研究を強化した上で将来展望の因子構造等を再検討するなどして、「肯定的・積極的将来像」因子と「向社会的努力志向」因子により構成される将来展望尺度を作成した。この尺度を用いて、高校生の学校適応と将来展望との関連を検証した結果、学校に行きたいという気持ちの強さを示す総合的適応感覚に対して、将来展望は直接的な関連を示さなかった。しかし、学習適応などの要因を経由するかたちで、将来展望と総合的適応感覚との間に、間接的な関連があることが示唆された。また、将来展望と心理的不健康との関連については、「肯定的・積極的将来像」因子と心理的不健康との間に負の関連が示唆された。 以上のことから、高校生の将来展望が高校生活に対する適応に影響する可能性があり、「いじめ」による排斥の結果、高校生の将来展望が低下した場合には、高校生活に対する適応も低下する可能性が予想された。
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