研究課題/領域番号 |
17K04751
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
両角 達男 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (50324322)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スパイラル / 小中高連携 / 代数カリキュラム / 知識の成長過程 / 数式・文字式 / 方程式と関数 / 数の拡張 / 教授実験 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,スパイラルを重視した数学的活動による小中高連携の代数カリキュラムを開発し,そのカリキュラムによる学習効果と学校代数に関わる児童・生徒の知識の成長過程を明らかにすることである。この目的の達成に向けて,令和元年度は「数式および文字式による説明・証明」,「方程式と関数」,「数の拡張」に関する代数カリキュラムを開発し,そのカリキュラムによる学習効果と児童・生徒の知識の成長過程について質的な考察を進めた。その典型として,「乗法九九とその拡張」に焦点をあてた小学1年から中学3年までの学校代数カリキュラムを設計し,小学3年,小学5年,中学1年,中学2年で教授実験を行い,その分析を行った。乗法九九表にある規則性や性質を見いだす場面で,小学5年生は電卓を積極的に使用し,見いだした事柄を過渡的な表記や言葉の式を用いて多様に表現する状況がみられた。一方,中学2年では,乗法九九表から見いだした事柄が成り立つかどうかを電卓で検証したり,主部と述部を意識した形で性質を表現したり,文字式で説明しようとする動きが多くみられた。また,「方程式と関数」に関わる単元として,中学3年で放物線の接線の作図方法を発見する数学的活動を行い,生徒の学習過程を分析した。紙を折って放物線の接線群をひく活動を振り返り,図形的な性質を見直すことが放物線の接線の作図方法を導くことにつながっていた。その際,格子に着目して放物線と接線との関係を読む活動が,図形と関数の領域間を往還することを促していた。放物線の接線をひくことについて,直観的な方法を振り返り,その意味を解釈することによって,微分の考えを用いて接線の式を導く学習の素地となる活動も生じていた。ここで,生徒の数学的な気づきを促す表現活動,その表現を洗練されていくこと,生徒の振り返りを促す教師の発話行為も重要な役割も果たしていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究目的である,スパイラルを重視した数学的活動による小中連携の「数式および文字式による説明・証明」,中高連携の「方程式と関数」に関する代数カリキュラムとして,「乗法九九とその拡張」に焦点をあてた小学1年から中学3年までの学校代数カリキュラムの設計,および複数の学年での教授実験とその分析,放物線とその接線に関する数学的探究を促す中学3年の教授実験とその分析を行っている。前者においては,横浜国立大学の附属小算数部と附属中数学科の教員との協働研究の体制をとり,実践と理論を往還した研究を進めていた。また,中高連携の「数の拡張」に関する教授実験とその分析も進めていた。さらに,学校代数における数学的探究,数学的知識の成長,知識の成長過程の解明に関する理論的な考察も継続して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は,代数的思考とその思考を深める道具の利用に焦点をあてながら,「数の拡張」,「数式および文字式による説明・証明」,「方程式と関数」で開発してきた単元等における,児童・生徒の数学的探究の様相,その探究による知識の成長過程,知識の成長を支える教師の関わりとその機能を明らかにしたい。例えば,「電卓を用いた操作,表現,解釈」を行き来することにより累乗根の概念形成がなされる。生徒と教師との関わりや,生徒自身の内省の活動を通して,いかに探究活動や知識の成長がなされるのかを解明したい。そこで,学校代数における数学的探究,数学学習とメタ認知との関係,数学的知識の成長に関する理論的な考察を一層進める。また,整数や関数の性質を発見し,その思考を深める対象として乗法九九表を捉えるなど,小中高連携を促す教材開発と教授単元をさらに進める。
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