本研究の目的は,スパイラルを重視した数学的活動による小中高連携の代数カリキュラムを開発し,そのカリキュラムによる学習効果と学校代数に関わる児童・生徒の知識の成長過程を明らかにすることである。この目的の達成に向けて,令和2年度は「代数的な思考とその思考を深める道具の利用」,「数式および文字式による説明・証明」に関する代数カリキュラムを開発し,そのカリキュラムによる学習効果と児童・生徒の成長過程について考察を進めた。「代数的な思考とその思考を深める道具の利用」に関しては,式に意味を与える幾何学的表現や言語的表現など,多様な表現様式どうしの関わりを通して促進される代数的思考とその特性について考察を行った。例えば,中学2年の図形学習の内容を発展的に扱う数学的活動を開発し,その学習過程の様相について考察をしている。図形を動的に捉えたときに見いだされる性質を関数的なアプローチによる方法で解釈したり,式を読むことを通して新たな図形の性質を発見したり,統合的に捉える学習活動も行っている。この学習活動を通して,式の形の変化と図形の連続的な変化を関連づけて,探究の仕方そのものへの関心を高める生徒の姿も見いだされている。「数式および文字式による説明・証明」に関しては,乗法九九とその拡張に関する探究について,小中高連携の視点からの教材解釈を行っている。また,小学3年の乗法九九とその拡張に関する教授実験についてさらなる分析を進めた。複数の表現を関連づけた解釈を通して,乗法九九のもつ性質や規則性の発見が促されることや,2つの段どうしの関係を適用しようとする類比的推論が,乗法九九の拡張とその振り返りの探究活動を促すことなどが見いだされている。 また,「例で考えることによる数学的探究」についても,反省的抽象,対象レベルとメタレベルの相互作用等,関わりのある先行研究による理論的な考察を進めている。
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