研究実績の概要 |
代表者は、非可換レベル構造つきアーベル多様体のモジュライ空間の基礎環$Z[\zeta_N,1/N]$上のコンパクト化$SQ_{g,K}$を構成し、Hilbert点の安定性を証明した(1999)。ただし、$K$は非退化交代2次形式を持つ有限群を表し、アーベル多様体のレベル構造を指定する。$N$は群$K$の位数を表す。基礎環が$Z[\zeta_N,1/N]$となっているのは、$N$を割る素数$p$(悪い素数という)の体の上ではモジュライ空間が構成できていないことを示している。さらに、同じ基礎環$Z[\zeta_N,1/N]$上に、第二のコンパクト化$SQ^{\rm toric}_{g,K}$を構成し, $SQ^{\rm toric}_{g,K}$から$SQ_{g,K}$への双有理全単射写像を構成した(2010)。これは、二つのモジュライ空間はほぼ同じであることを示している。残る主要な問題は基礎環$Z[\zeta_N]$上にモジュライ空間を延長することである。いいかえれば、$N$を割る素数$p$の体の上でもモジュライ空間を構成することである。上の二つのどちらが延長できるのか大変微妙な問題であった。現在進展中の研究で、第二のモジュライ空間$SQ^{\rm toric}_{g,K}$を基礎環$Z[\zeta_N]$上への拡張する理論が、完成の方向で進んでいる。アーベル多様体だけのモジュライ空間を基礎環$Z[\zeta_N]$上への拡張する理論はもう少し容易であるが、その場合でも、悪い素点でのモジュライ空間の構造を具体的に調べることは困難かつ重要である。そのために、悪い素点で可換有限群スキームであるハイゼンベルグ群のウェイユ対形式を記述しなければならない。その研究に最近進展があり、1次元のKatz-Mazur理論を精密に記述できるようになった。
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